大切なご家族を亡くされた後、悲しみの中で直面するのが葬儀の準備です。
そして、その後に続くのが相続の手続き。
多くの方が、「葬儀にかかった費用は、残された相続財産から支払っても良いのだろうか?」「相続税の計算に影響するのだろうか?」といった疑問を抱かれます。
葬儀費用は決して小さな金額ではありませんし、相続財産は故人が築き、次世代へ引き継がれる大切なものです。
これら二つの関係性は複雑で、誤解や認識の違いから、残念ながら家族間でのトラブルに発展してしまうケースも少なくありません。
この記事では、葬儀費用と相続財産の基本的な関係性から、相続税の計算における扱い、そして将来的なトラブルを避けるための具体的な対策まで、分かりやすく解説します。
一つずつ疑問を解消し、大切な手続きを円滑に進めるための一助となれば幸いです。
葬儀費用は相続財産から支払える?基本的な考え方
人が亡くなると、すぐに葬儀の手配が必要になります。
しかし、相続の手続きは一般的に、故人の死亡を知った日から始まって、相続財産の全容を把握し、相続人全員で話し合い(遺産分割協議)、名義変更などを行うまでに数ヶ月、場合によってはそれ以上の時間がかかります。
つまり、葬儀費用の支払い時期と、相続財産が確定し、実際に分けられるようになる時期にはタイムラグがあるのです。
法的な観点から見ると、葬儀費用は故人の生前の債務ではなく、相続人が相続によって引き継ぐ義務のある「相続債務」には原則として含まれません。
これは、葬儀が故人の意思に基づいて行われるものではなく、遺族や関係者が行う儀式であると解釈されるためです。
そのため、厳密には葬儀費用の支払い義務は、葬儀を主催した人、多くの場合「喪主」にあるとされています。
しかし、現実には、故人のために行われる葬儀の費用を、故人が残した財産から支払うという慣習が広く根付いています。
この慣習的な取り扱いと法的な解釈のずれが、葬儀費用と相続財産の関係を分かりにくくしている一因と言えるでしょう。
相続財産から葬儀費用を支払うこと自体は可能ですが、いくつかの注意点があります。
特に、遺産分割協議がまとまる前に相続財産(特に預貯金)から葬儀費用を支出する場合や、相続放棄を検討している場合は、慎重な判断が必要です。
次のセクションでは、誰が葬儀費用を負担するのか、そして相続財産からの具体的な支払い方法とそれに伴う注意点について詳しく見ていきましょう。
誰が負担する?喪主と相続人の役割
葬儀費用の支払い義務は、法的には葬儀の契約主体である喪主にあります。
しかし、家族葬や一般的な葬儀の場合、実際には喪主が一人で全額を負担するというケースばかりではありません。
故人の配偶者や子どもなど、相続人である親族が話し合って費用を分担したり、故人の遺産から支払ったりすることが一般的です。
この「誰がどのように負担するか」という点は、法律で明確に定められているわけではなく、あくまで家族間の合意に基づいて行われます。
もし遺言書で「葬儀費用は○○に支払わせる」といった指定があれば、その指定に従うことになります。
また、故人が生前に特定の人物と葬儀費用に関する契約を結んでいた場合も、その契約が優先されます。
しかし、多くの場合、そのような明確な取り決めがないまま葬儀を迎えることになります。
この場合、喪主が一旦費用を立て替え、後から相続人全員で分担する、あるいは遺産から精算するという流れが一般的です。
ここで重要なのは、誰が喪主であるかということと、誰が相続人であるかということは必ずしも一致しないという点です。
例えば、故人に配偶者と子どもが複数いる場合、配偶者が喪主を務めることが多いですが、相続人は配偶者と全ての子どもたちになります。
この場合、喪主である配偶者に支払い義務がありますが、他の相続人も故人の財産を受け継ぐ立場として、葬儀費用について無関心ではいられません。
後々のトラブルを防ぐためには、喪主と他の相続人が密に連携を取り、費用の分担や精算について事前に話し合っておくことが非常に重要になります。
私の知人のケースでは、父親の葬儀費用を長男が喪主として全て立て替えましたが、後で他の兄弟に請求した際に、「そんなに高額な葬儀をする必要はなかった」「遺産が少ないのだから、もっと簡素にすべきだった」といった不満が出て、遺産分割協議が難航したという話を聞きました。
このような事態を避けるためにも、葬儀の規模や費用について、できる範囲で事前に家族と情報共有し、共通認識を持っておくことが望ましいでしょう。
相続財産からの支払い方法と注意点
遺産分割協議が完了する前でも、相続財産から葬儀費用を支払う必要が出てくることはよくあります。
特に、故人の預貯金から支払いたいと考える方が多いでしょう。
以前は、遺産分割協議がまとまるまで故人の預貯金は凍結され、引き出すことが困難でしたが、民法の改正により、遺産分割前でも一定の範囲内で故人の預貯金を引き出せる制度ができました。
この制度では、各相続人が単独で、故人の預貯金口座から「口座残高×1/3×当該相続人の法定相続分」の上限額(ただし、同一の金融機関からは150万円まで)を引き出すことができます。
この引き出したお金を葬