大切な方を亡くされた悲しみの中で、葬儀の準備や費用について考えなければならないのは、心身ともに大きな負担となります。
葬儀にはまとまった費用がかかるため、「経済的な不安を感じる」「何か公的な支援制度はないのだろうか」と心配されている方もいらっしゃるかもしれません。
実は、葬儀にかかる費用を軽減するための葬儀費用の補助金助成金制度がいくつか存在します。
これらの制度を知っておけば、少しでも経済的な負担を和らげることができます。
この記事では、葬儀に関連する公的な支援制度について、その種類や申請方法、受け取れる金額などを分かりやすく解説します。
知っているか知らないかで大きな違いが出ることもありますので、ぜひ最後までお読みください。
葬儀費用で受け取れる公的な補助金・助成金の種類
故人を弔うための葬儀にかかる費用は、決して少なくありません。
しかし、日本には故人が加入していた公的な医療保険や、生前の状況に応じて葬儀費用の一部を補助してくれる制度があります。
これらの制度は、遺族の経済的な負担を軽減することを目的としており、条件を満たせば誰でも申請できます。
主に、健康保険や国民健康保険からの給付、生活保護制度に基づく給付などがあります。
故人がどのような制度に加入していたかによって、申請できる制度や受け取れる金額が異なりますので、まずは故人の健康保険証などを確認することが第一歩となります。
多くの方が利用できる可能性のある制度を知っておくことは、いざという時に慌てないためにも非常に重要です。
これらの公的な支援制度は、遺族が安心して故人を見送るためのセーフティネットと言えるでしょう。
健康保険や国民健康保険からの「葬祭費・埋葬料」
故人が亡くなった時点で、健康保険(会社員やその扶養家族などが加入)または国民健康保険(自営業や無職の方などが加入)に加入していた場合、葬儀を行った人に対して「葬祭費」または「埋葬料」という名目で一定額が支給されます。
この制度は、故人の加入していた健康保険組合や市区町村の国民健康保険窓口が管轄しています。
健康保険からの支給は「埋葬料」と呼ばれ、被保険者本人が亡くなった場合は一律5万円が、被扶養者が亡くなった場合は被保険者に「家族埋葬料」として一律5万円が支給されるのが一般的です。
一方、国民健康保険からの支給は「葬祭費」と呼ばれ、支給額は自治体によって異なりますが、多くの市区町村で3万円から7万円程度となっています。
例えば、東京都23区では7万円、大阪市では5万円、福岡市では5万円といったように、地域差があります。
申請には、故人の保険証の返還、死亡診断書(または死体検案書)の写し、葬儀の領収書(または会葬礼状)、申請者本人名義の振込先口座情報などが必要になります。
葬儀を行った人が申請者となりますので、喪主を務めた方が申請することが多いですが、実際に葬儀費用を負担した親族なども申請できる場合があります。
申請先は、故人が加入していた健康保険組合や、故人の最後の住所地の市区町村役場の国民健康保険課となります。
生活保護受給者が対象となる「葬祭扶助」
故人が生計を維持していた方が生活保護を受けており、かつ葬儀を行う遺族も生活保護を受けている場合など、経済的に困窮しており葬儀費用を捻出することが難しいと判断されるケースでは、生活保護法に基づく「葬祭扶助」が適用されることがあります。
この制度は、最低限の葬儀(火葬や必要最小限の儀式)を行うための費用を自治体が負担するものです。
葬祭扶助の金額は、地域や状況によって異なりますが、一般的に20万円程度が上限とされています。
この金額内で、火葬料や骨壺代、運搬費など、必要最低限の項目が賄われます。
葬祭扶助の大きな特徴は、原則として葬儀を行う前に申請が必要であるという点です。
葬儀を終えてから申請しても認められない場合が多いので、注意が必要です。
申請は、故人の最後の住所地を管轄する福祉事務所で行います。
福祉事務所の担当者が、申請者の状況や故人の状況を確認し、扶助の要否を判断します。
葬祭扶助が認められた場合、葬儀社へ費用が直接支払われることもあれば、申請者に支給されることもあります。
どのような手続きになるかは、管轄の福祉事務所に確認が必要です。
故人が生活保護受給者であったとしても、葬儀費用を負担する遺族に十分な資力がある場合は、葬祭扶助は適用されません。
あくまで、経済的に困窮している遺族が、故人を最低限の方法で弔うための制度です。
労災保険やその他の制度による給付
故人の死亡が業務上の事由や通勤によるものであった場合、労働者災害補償保険(労災保険)から「葬祭料」が支給される制度があります。
これは、労働者が業務中や通勤中に事故などで亡くなった場合に、葬儀を行った人に対して支給されるものです。
支給額は、原則として給付基礎日額の60日分に30万円を加えた額(上限・下限あり)と定められています。
労災保険からの葬祭料は、一般的な健康保険や国民健康保険からの給付とは根拠法が異なるため、重複して受け取れる場合があります。
ただし、両方の制度に申請できるかどうかは、故人の状況や死亡原因によりますので、必ず関係機関に確認することが重要です。
また、故人が公務員や私立学校の教職員であった場合は、共済組合から同様の給付が行われることがあります。
さらに、災害救助法が適用されるような大規模な災害で亡くなられた場合には、自治体から臨時の弔慰金や葬祭費用の補助が出ることがあります。
これは一般的な制度ではありませんが、予期せぬ事態に備えて知っておくと良いでしょう。
その他にも、特定の団体や組合、互助会などに故人が加入していた場合、独自の給付金や見舞金制度がある可能性もゼロではありません。
まずは、故人が生前に加入していた可能性のある様々な制度について、確認してみる価値は十分にあります。
故人の加入していた制度を確認する重要性
葬儀費用の公的な補助金・助成金制度を申請するためには、まず故人が生前にどのような制度に加入していたのかを正確に把握することが何よりも重要です。
健康保険証、年金手帳、雇用保険被保険者証、生活保護受給者証など、故人に関する書類を丁寧に確認しましょう。
特に、健康保険証は、葬祭費や埋葬料の申請に直結する重要な書類です。
会社勤めだったのか、自営業だったのか、すでに退職していたのか、高齢者だったのかなど、故人の状況によって加入していた制度が異なります。
例えば、会社員であれば健康保険組合、退職者であれば国民健康保険や後期高齢者医療制度、生活保護を受けていれば生活保護受給者証があるはずです。
これらの書類が見当たらない場合でも、故人の最後の住所地の市区町村役場に問い合わせることで、国民健康保険や後期高齢者医療制度への加入状況を確認できることがあります。
また、会社勤めだった場合は、以前の勤務先に問い合わせてみることも有効です。
故人がどのような制度に加入していたかによって、申請先や必要書類、受け取れる金額が全く異なります。
誤った窓口に問い合わせたり、必要な書類が準備できていなかったりすると、申請がスムーズに進まなくなってしまいます。
まずは落ち着いて故人の状況を確認し、関係機関に問い合わせてみましょう。
公的な補助金・助成金の申請方法と流れ
葬儀費用の補助金や助成金について、どのような制度があるのかをご理解いただけたかと思います。
次に気になるのは、「どうすればこれらの給付を受け取れるのか?」という具体的な申請方法と流れでしょう。
公的な制度を利用するためには、定められた手続きを行う必要があります。
申請先は故人が加入していた制度によって異なりますし、必要書類もそれぞれ異なります。
また、申請には期限が設けられている場合がほとんどです。
これらの情報を事前に知っておくことで、慌てることなく、スムーズに手続きを進めることができます。
申請手続きは、故人が亡くなられてから一定期間内に行う必要があるため、早めに情報を集めることが肝心です。
多くの場合、葬儀を終えてから申請することになりますが、生活保護の葬祭扶助のように、事前に申請が必要な制度もありますので注意が必要です。
ここでは、一般的な申請の流れや必要書類、そして申請する上での注意点について詳しく解説します。
申請先はどこ?必要な書類は何?
公的な葬儀費用の補助金・助成金の申請先は、故人が加入していた制度によって異なります。
最も一般的な健康保険や国民健康保険からの「葬祭費・埋葬料」の場合、申請先は以下のようになります。
故人が会社員(またはその扶養家族)で健康保険組合や協会けんぽに加入していた場合は、故人の勤務先を管轄していた健康保険組合または協会けんぽの支部に申請します。
故人が自営業や無職などで国民健康保険に加入していた場合は、故人の最後の住所地の市区町村役場の国民健康保険課(または担当課)に申請します。
後期高齢者医療制度に加入していた場合は、故人の最後の住所地の市区町村役場の後期高齢者医療制度担当課に申請します。
生活保護の葬祭扶助の場合は、故人の最後の住所地を管轄する福祉事務所に申請します。
労災保険からの葬祭料の場合は、故人の勤務地を管轄する労働基準監督署に申請します。
必要な書類も制度によって異なりますが、一般的に必要となる主な書類は以下の通りです。
1. 申請書:各制度の申請窓口で入手するか、ウェブサイトからダウンロードできます。
2. 死亡診断書(または死体検案書)の写し:故人が亡くなったことを証明する書類です。
3. 故人の健康保険証(または国民健康保険被保険者証、後期高齢者医療被保険者証など):返還が必要となる場合が多いですが、コピーが必要な場合もあります。
4. 申請者本人を確認できる書類:運転免許証やマイナンバーカードなどです。
5. 申請者名義の預金通帳など振込先がわかるもの:給付金が振り込まれる口座情報が必要です。
6. 葬儀を行ったことや費用を負担したことを証明できる書類:葬儀社の領収書(申請者名義のもの)や会葬礼状などです。
7. 故人と申請者の関係を証明できる書類:戸籍謄本などが必要となる場合があります。
8. 委任状:申請者以外が代理で申請する場合に必要です。
これらの書類はあくまで一般的なものであり、申請先や故人の状況によって追加の書類が必要となる場合があります。
申請する前に必ず、該当する窓口に問い合わせて必要書類を確認することが最も確実な方法です。
役所のウェブサイトなどで申請書をダウンロードできる場合もありますが、最新の情報や手続きの詳細は窓口で確認するようにしましょう。
申請期限と受け取りまでの期間
公的な葬儀費用の補助金・助成金には、申請できる期間(申請期限)が定められています。
この期限を過ぎてしまうと、原則として給付金を受け取ることができなくなってしまいます。
健康保険や国民健康保険からの「葬祭費・埋葬料」の場合、申請期限は故人が亡くなった日の翌日から2年間と定められているのが一般的です。
これは、民法上の消滅時効の規定に基づいています。
ただし、自治体や健康保険組合によっては独自の規定がある場合も考えられますので、念のため確認しておくと安心です。
生活保護の葬祭扶助については、先述の通り原則として葬儀を行う「前」に申請が必要です。
特別な事情がある場合は事後申請が認められることもありますが、非常に稀なケースです。
労災保険の葬祭料も、原則として死亡日から2年以内に請求する必要があります。
どの制度も、故人が亡くなってから時間が経つと申請が難しくなるか、あるいは一切できなくなってしまう可能性が高いため、早めに手続きを進めることが重要です。
申請をしてから給付金を受け取るまでの期間は、申請先の機関や手続きの状況によって異なりますが、一般的には申請書類に不備がなければ、1ヶ月から2ヶ月程度で指定した口座に振り込まれることが多いようです。
ただし、申請書類に不備があった場合や、確認に時間を要する事項がある場合は、さらに時間がかかることもあります。
年末年始やお盆休みなどの長期休暇を挟む場合は、通常よりも時間がかかることを考慮しておくと良いでしょう。
申請が受理された後、審査が行われ、支給決定通知書などが送付されるのが一般的な流れです。
もし、申請から2ヶ月以上経っても連絡がない場合は、申請先の窓口に問い合わせてみましょう。
申請期限内に確実に申請を完了させること、そして申請書類は漏れなく正確に準備することが、スムーズな給付につながります。
申請手続きの具体的なステップと注意点
公的な葬儀費用の補助金・助成金を申請するための具体的なステップは、以下のようになります。
1. 故人が加入していた制度を確認する:健康保険証や国民健康保険証、年金手帳などを確認し、故人がどの制度の対象となるか把握します。
不明な場合は、市区町村役場などに問い合わせます。
2. 申請先の窓口を確認する:故人の加入制度に基づいて、申請すべき窓口(健康保険組合、協会けんぽ、市区町村役場、福祉事務所、労働基準監督署など)を特定します。
3. 必要書類を確認し準備する:申請先の窓口に電話やウェブサイトで問い合わせ、必要な書類リストを入手します。
死亡診断書の写し、申請者の身分証明書、振込先口座情報、葬儀の領収書など、漏れがないように準備します。
特に、領収書は申請者(費用を負担した人)の名前で発行されているか確認しましょう。
4. 申請書を入手し記入する:申請先の窓口で申請書を受け取るか、ウェブサイトからダウンロードして印刷します。
必要事項を正確に記入します。
不明な点があれば、窓口に問い合わせながら記入しましょう。
5. 窓口に申請書類を提出する:必要書類一式を揃え、申請先の窓口に提出します。
郵送での申請が可能な場合もありますが、直接窓口に提出する方が、その場で書類の不備などを確認してもらえるため安心です。
生活保護の葬祭扶助は、原則として葬儀前に福祉事務所で申請・相談が必要です。
6. 審査結果を待つ:提出された書類に基づいて審査が行われます。
審査期間は通常1ヶ月~2ヶ月程度です。
7. 給付金の受け取り:審査が通れば、指定した申請者名義の口座に給付金が振り込まれます。
支給決定通知書などが送付される場合もあります。
申請にあたっての注意点としては、まず申請期限を厳守することが挙げられます。
期限を過ぎると申請できなくなるため、故人が亡くなられたら早めに情報収集と準備を始めましょう。
また、必要書類に不備がないか提出前にしっかりと確認することも重要です。
書類の不足や記載ミスがあると、手続きが滞る原因となります。
特に、葬儀の領収書は、誰が葬儀費用を負担したのかを証明する大切な書類ですので、申請者の氏名が記載されているか確認してください。
申請者名義の口座情報も正確に記入する必要があります。
故人の口座は凍結される場合があるため、申請者本人名義の口座を指定します。
もし分からないことがあれば、遠慮なく申請先の窓口に問い合わせましょう。
専門の担当者が丁寧に教えてくれます。
葬儀社や専門家への相談も検討しよう
葬儀後の手続きは多岐にわたり、心身ともに疲れている中で全てを自分で行うのは大変な負担です。
公的な補助金・助成金の申請手続きについても、「複雑そうでよく分からない」「自分でできるか不安だ」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
そのような場合は、葬儀社や専門家への相談を検討するのも有効な手段です。
多くの葬儀社では、葬儀後の手続きに関するサポートを提供しており、公的な給付金の申請についてもアドバイスをしてくれたり、必要な書類についての情報を提供してくれたりします。
中には、申請手続きの代行サービスを行っている葬儀社もありますが、この場合は別途手数料がかかることが一般的です。
代行を依頼する場合は、サービス内容と費用について事前にしっかりと確認しましょう。
また、行政書士や司法書士といった法律の専門家も、葬儀後の手続きや相続に関する相談を受け付けています。
公的な給付金申請のサポートを行っている専門家もいますので、より専門的なアドバイスが必要な場合や、他の相続手続きなども含めて一括で相談したい場合には頼りになります。
ただし、専門家への依頼には費用が発生しますので、ご自身の状況や予算に合わせて検討してください。
自分で申請手続きを行う場合でも、申請先の窓口(市区町村役場や健康保険組合など)の担当者は、申請に関する専門家です。
分からない点や不安な点があれば、遠慮なく窓口に電話で問い合わせたり、直接窓口で相談したりしましょう。
担当者は丁寧に教えてくれますし、必要な手続きをスムーズに進めるためのアドバイスをもらえます。
一人で抱え込まず、利用できる相談先を積極的に活用することが、手続きを乗り切るための大切なポイントです。
補助金・助成金以外で葬儀費用を軽減する方法
公的な補助金や助成金は、葬儀費用の一部をカバーしてくれるありがたい制度ですが、それだけで全ての費用を賄えるわけではありません。
葬儀の費用は、その形式や規模によって大きく変動します。
少しでも費用を抑えたいと考えるのであれば、公的な制度の活用と合わせて、葬儀の形式を工夫したり、事前に準備を進めたりすることも非常に有効です。
葬儀の費用を軽減するための方法はいくつかあり、これらを組み合わせることで、経済的な負担を大きく減らすことが可能になります。
例えば、葬儀の形式をシンプルにする、互助会や生命保険を活用する、複数の葬儀社から見積もりを取るなど、様々なアプローチが考えられます。
ここでは、公的な支援制度以外で葬儀費用を軽減するための具体的な方法について解説します。
葬儀形式の選択による費用比較
葬儀にかかる費用は、選ぶ葬儀の形式によって大きく異なります。
日本の一般的な葬儀形式には、主に以下のようなものがあります。
1. 一般葬:通夜、告別式を行い、親族や友人・知人など多くの参列者を招いて行う伝統的な形式です。
費用は高額になる傾向があります。
2. 家族葬:親族やごく親しい友人のみで行う比較的小規模な葬儀です。
一般葬よりも参列者が少ないため、飲食費や返礼品などの費用を抑えることができます。
近年増えている形式です。
3. 一日葬:通夜を行わず、告別式と火葬を一日で行う形式です。
通夜がない分、会場費や人件費、飲食費などを抑えることができます。
遠方からの参列者の負担も減らせます。
4. 直葬(火葬式):通夜や告別式といった儀式を行わず、ご遺体を安置した後、直接火葬場へ搬送して火葬のみを行う最もシンプルな形式です。
費用は最も安く抑えられますが、故人とのお別れの時間が少ないという側面もあります。
この他にも、自宅葬や密葬など様々な形式がありますが、費用を抑えたい場合は、直葬、一日葬、家族葬の順に費用が安くなる傾向にあります。
例えば、一般葬の平均費用が100万円~200万円程度であるのに対し、家族葬は50万円~150万円程度、一日葬は40万円~100万円程度、直葬は20万円~50万円程度が目安と言われています(地域や葬儀社によって大きく異なります)。
もちろん、費用だけでなく、故人の遺志や遺族の意向、参列者の人数などを考慮して最適な形式を選ぶことが大切ですが、費用を抑えたいという明確な目的がある場合は、よりシンプルな形式を検討することが有効な手段となります。
どのような形式が良いか迷う場合は、複数の