お通夜も葬式もやらないという選択肢は、近年注目を集めています。
かつては当たり前だった形式にとらわれず、故人や遺族の意向に沿った見送りの形を選ぶ方が増えているのです。
「お通夜も葬式もやらない選択肢と手続きについて」知りたいと考えているあなたは、きっと大切な方をどのように見送るべきか、あるいはご自身の最期について、真剣に向き合っていらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、お通夜や葬式を行わないという選択がなぜ増えているのか、具体的な手続きはどうなるのか、そしてその選択に伴う注意点や後悔しないための準備について、詳しく解説していきます。
ご自身の状況や考え方に合う見送りの形を見つけるための一助となれば幸いです。
お通夜も葬式も「やらない」という選択肢が増えている背景
葬儀に対する価値観の変化
現代社会において、葬儀に対する人々の価値観は大きく変化しています。
かつては、地域のしきたりや家制度に基づいた大規模な葬儀が一般的でした。
しかし、核家族化が進み、地域とのつながりが希薄になるにつれて、形式よりも故人や遺族の意思が尊重される傾向が強まっています。
「故人らしいお見送りをしたい」「形式的な儀式よりも、静かに故人を偲ぶ時間を大切にしたい」といった個人的な思いが、葬儀のあり方を多様化させています。
また、無宗教の方や特定の宗教に属していない方も増え、宗教儀礼を伴わないシンプルな見送り方を選ぶ方も少なくありません。
葬儀は故人のためだけでなく、残された遺族が現実を受け止め、故人を偲び、新たな一歩を踏み出すための通過儀礼でもあります。
その通過儀礼の形が、従来の画一的なものから、よりパーソナルなものへと変化していることが、お通夜や葬式を行わない選択肢が広がる大きな要因の一つと言えるでしょう。
費用や準備の負担を減らしたいという思い
葬儀には多額の費用がかかることが一般的です。
葬儀社への支払い、飲食費、返礼品、お布施など、合計すると数百万円になるケースも珍しくありません。
これらの経済的な負担を避けたい、あるいはできるだけ抑えたいという思いから、シンプルで費用のかからない直葬(火葬のみを行う形式)を選ぶ方が増えています。
また、葬儀の準備は、遺族にとって非常に大きな負担となります。
死亡の連絡、葬儀社との打ち合わせ、参列者への対応、各種手配など、悲しみの中にいながら短期間で多くのことをこなさなければなりません。
特に、高齢の遺族や遠方に住んでいる遺族にとっては、身体的・精神的な負担がさらに大きくなります。
お通夜や葬式を行わないという選択は、このような経済的、精神的な負担を軽減したいという現実的なニーズにも応えるものです。
準備にかかる労力を大幅に削減できるため、遺族は故人をゆっくり偲ぶ時間を持ちやすくなるという側面もあります。
ただし、費用が全てではないため、安さだけで判断せず、内容をしっかり確認することが重要です。
新型コロナウイルスの影響と葬儀の簡素化
新型コロナウイルスの世界的な流行は、葬儀のあり方にも大きな影響を与えました。
感染リスクを避けるため、多くの葬儀が規模を縮小したり、参列を制限したりする形で実施されるようになりました。
この経験を通じて、多くの人が「必ずしも大勢で集まる必要はない」「家族だけで静かに見送る形もある」ということを実感しました。
また、遠方に住む親族が移動できない、高齢の親族が参列できないといった状況も生まれ、物理的に従来の形式での葬儀が難しくなったケースも多々ありました。
このような状況下で、お通夜や葬式を行わず、火葬のみを行う直葬が、安全かつ現実的な選択肢として広く認識されるようになりました。
コロナ禍が落ち着いた現在でも、一度経験した葬儀の簡素化が、その後の葬儀に対する意識に影響を与えています。
「密を避ける」「遠方からの移動負担をなくす」といった理由から始まった簡素化が、結果として「家族だけで見送る静かな時間」や「費用負担の軽減」といったメリットとして捉えられ、引き続き直葬という選択肢を選ぶ人が増えているのです。
お通夜も葬式も行わない「直葬」の具体的な流れと手続き
死亡から火葬までの基本的なステップ
お通夜も葬式も行わない、いわゆる「直葬(ちょくそう)」を選択した場合、死亡されてから火葬までの流れは非常にシンプルになります。
まず、病院で亡くなった場合は、医師から「死亡診断書」が交付されます。
自宅で亡くなった場合は、かかりつけ医や監察医による「死体検案書」が必要となります。
これらの書類は、その後の手続きに不可欠です。
次に、ご遺体を安置する場所を決めます。
ご自宅に連れて帰ることも可能ですが、スペースや設備が必要なため、葬儀社の霊安室や提携の安置施設を利用するのが一般的です。
葬儀社に連絡し、ご遺体の搬送を依頼します。
搬送の際には、必ず複数の葬儀社から見積もりを取り、料金体系を比較検討することをおすすめします。
安置施設に到着後、火葬の日時を決定します。
法律により、死亡後24時間以上経過しないと火葬はできません。
火葬当日は、ごく限られた近親者のみが火葬場に立ち会うのが一般的です。
火葬後、お骨上げを行い、ご遺骨を受け取ります。
直葬では、お通夜や葬式といった儀式的な時間は設けられず、必要最低限の搬送と火葬のみが行われます。
この一連の流れをスムーズに進めるためには、信頼できる葬儀社を見つけることが非常に重要になります。
役所への届け出と火葬許可証の取得
人が亡くなった際には、必ず役所への届け出が必要です。
これは、お通夜や葬式を行うかどうかにかかわらず、すべてのケースで共通の手続きです。
死亡の事実を知った日から7日以内(国外で死亡した場合は3ヶ月以内)に、死亡届を提出しなければなりません。
死亡届は、死亡診断書または死体検案書と一体になった用紙になっています。
届出人は、親族、同居者、家主、地主、家屋管理人、土地管理人、後見人などがなることができますが、一般的には親族が行います。
提出先は、故人の本籍地、死亡地、または届出人の所在地の市区町村役場です。
死亡届を提出することで、役所から「火葬許可証」または「埋葬許可証」が交付されます。
直葬の場合は火葬許可証が必要です。
この火葬許可証がなければ、火葬を行うことができません。
多くの場合、葬儀社が遺族に代わって死亡届の提出と火葬許可証の取得手続きを代行してくれます。
手続きを代行してもらう場合は、必要な書類(死亡診断書/死体検案書など)を葬儀社に渡し、委任状を作成することが一般的です。
この手続きは故人の戸籍を抹消し、公的に死亡の事実を登録するための重要なステップです。
手続きを怠ると、火葬ができないだけでなく、その後の様々な行政手続き(健康保険、年金、相続など)にも影響が出てしまうため、迅速かつ正確に行う必要があります。
葬儀社との連携と注意すべき点
お通夜も葬式も行わない直葬を選択する場合、葬儀社との連携は非常に重要になります。
直葬を専門に行っている葬儀社もあれば、様々なプランを提供している葬儀社もあります。
まずは、複数の葬儀社から資料を取り寄せたり、インターネットで情報を収集したりして、直葬の実績があるか、料金体系は明確かなどを確認しましょう。
見積もりを依頼する際は、基本料金に含まれるものと、別途費用がかかる項目(例えば、安置日数による追加料金、深夜・早朝の搬送費用、ドライアイスの追加、骨壺のグレードアップなど)を具体的に確認することが大切です。
後から思わぬ追加料金が発生するトラブルを避けるためにも、疑問点は遠慮なく質問し、納得がいくまで説明を受けましょう。
また、担当者の対応も重要な判断基準です。
遺族の意向を丁寧に聞き、寄り添ってくれる信頼できる担当者を見つけることが、後悔のないお見送りのために不可欠です。
契約を結ぶ前に、サービス内容、費用、キャンセル規定などを記載した契約書をしっかりと確認しましょう。
葬儀社によっては、直葬を希望しているにもかかわらず、より高額なプランを勧めたり、不要なサービスをつけようとしたりする場合もあります。
自分たちの希望をしっかりと伝え、不要なものはきっぱりと断る勇気も必要です。
事前に複数の葬儀社に相談し、比較検討することで、安心して任せられるパートナーを見つけることができるでしょう。
直葬を選択する際に知っておきたい注意点と後悔しないための準備
親族や関係者への連絡と理解を得る方法
お通夜も葬式も行わない直葬を選択した場合、親族や故人の友人・知人への連絡は慎重に行う必要があります。
従来の葬儀を想定している方にとっては、連絡が遅れたり、事後報告になったりすると、不満や混乱を招く可能性があるからです。
まずは、最も近い親族(配偶者、子供、親、兄弟姉妹など)には、早めに連絡し、直葬を選択する意向と理由を丁寧に説明することが重要です。
故人の生前の意思であったこと、遺族の負担を考えてのこと、費用を抑えたいことなど、具体的な理由を伝えることで、理解を得やすくなります。
特に高齢の親族や、地域のしきたりを重んじる親族がいる場合は、事前に十分な話し合いが必要です。
全員の理解を得るのは難しい場合もありますが、自分たちの考えを正直に伝え、なぜその選択をするのかを丁寧に説明することが大切です。
連絡のタイミングとしては、亡くなった直後に危篤の連絡を入れている場合は、その後の連絡で死亡の事実と直葬を選択したことを伝えます。
危篤の連絡を入れていない場合は、死亡の連絡と同時に直葬である旨を伝えます。
連絡する範囲については、遺族で話し合って決めますが、一般的には三親等程度を目安にすることが多いようです。
友人・知人に対しては、火葬が終わった後で、死亡通知状を送付したり、電話やメールで連絡したりすることが一般的です。
連絡する内容には、死亡の事実、故人の氏名、死亡日時、直葬にて見送ったこと、香典や供花を辞退する意向などを記載すると良いでしょう。
後日、改めて故人を偲ぶ機会を設ける場合は、その旨も伝えると、関係者の心の整理にもつながります。
供養や納骨に関する考慮事項
お通夜も葬式も行わない直葬を選んだ場合でも、火葬後の供養や納骨については考える必要があります。
火葬を終えて受け取ったご遺骨を、どのように安置し、供養していくかは遺族にとって大切な問題です。
選択肢は様々です。
一時的に自宅で保管することも可能ですが、その後の納骨先を決めなければなりません。
一般的な納骨先としては、お墓(墓地)、納骨堂、永代供養墓などがあります。
もし菩提寺(代々のお墓があるお寺)がある場合は、そこに納骨することが考えられますが、直葬を行ったことで、お寺との関係が問題になる可能性もゼロではありません。
お寺によっては、お通夜や葬式を行わなかったことに対して、納骨を断られたり、離檀料(檀家をやめる際に支払う費用)を請求されたりするケースも稀にあります。
菩提寺がある場合は、事前に相談し、理解を得ておくことが望ましいでしょう。
近年では、お墓を持たない供養の形も増えています。
例えば、遺骨を海や山に撒く「散骨」、樹木の下に埋葬する「樹木葬」、自宅で遺骨の一部を保管する「手元供養」などがあります。
これらの新しい供養方法は、費用を抑えられるだけでなく、故人の自然への回帰を願うなど、様々な価値観に対応しています。
どのような供養方法を選ぶにしても、家族で話し合い、故人の遺志や遺族の思いを尊重することが大切です。
直葬はあくまで見送りの「形式」であり、その後の故人を偲び、供養していく方法は、遺族が自由に選択できるということを理解しておきましょう。
費用以外にかかる見落としがちな負担
お通夜や葬式を行わない直葬は、従来の葬儀に比べて費用を大幅に抑えることができます。
しかし、経済的な負担が少ないからといって、他の負担が全くないわけではありません。
むしろ、見落としがちな精神的・物理的な負担が発生する可能性があります。
一つは、周囲からの理解を得るための精神的な負担です。
特に高齢の親族や、地域のしきたりを重んじるコミュニティに属している場合、「なぜ葬式をやらないのか」「かわいそうだ」といった批判的な意見や、心ない言葉をかけられる可能性があります。
このような反応にどう向き合うか、遺族間で事前に話し合い、心の準備をしておくことが大切です。
また、葬儀という区切りがないことで、悲しみや喪失感と向き合うのが難しくなる遺族もいます。
葬儀は、故人の死を受け入れ、悲しみを共有し、心の整理をつけるための儀式的な側面も持っています。
その機会がないことで、気持ちの整理がつかず、後々まで影響が残ることもあります。
そのため、直葬後であっても、家族や親しい友人と集まって故人を偲ぶ会を開く、遺影の前で語りかける時間を持つなど、意識的に故人と向き合う時間を作ることが重要です。
さらに、葬儀後の様々な手続き(行政手続き、銀行口座の凍結解除、健康保険証・年金手帳の返却、相続手続き、遺品整理など)は、直葬を選んでも発生します。
これらの手続きは煩雑で時間と労力がかかるため、事前にどのような手続きが必要か把握しておき、計画的に進める必要があります。
必要であれば、専門家(弁護士、司法書士、税理士など)のサポートを検討することも有効です。
費用だけでなく、これらの見落としがちな負担にも目を向け、事前に準備しておくことが、後悔のない選択につながります。
まとめ
お通夜も葬式もやらないという選択肢は、現代社会における葬儀の多様化を象徴するものです。
費用や準備の負担軽減、故人や遺族の意思尊重、そしてコロナ禍の影響など、様々な背景からこの選択をする方が増えています。
特に、火葬のみを行う「直葬」は、その具体的な方法として広く認知されています。
直葬を選択した場合、死亡届の提出や火葬許可証の取得といった役所での手続き、そしてご遺体の搬送や火葬の手配を葬儀社と連携して行うことが基本的な流れとなります。
これらの手続き自体は比較的シンプルですが、信頼できる葬儀社選びや、見積もりの詳細確認など、注意すべき点も複数存在します。
また、直葬を選択する上で最も重要とも言えるのが、親族や関係者への連絡と理解を得るための丁寧な説明です。
全員が納得する形にするのは難しい場合もありますが、誠意をもって理由を伝えることが、後々の関係性を良好に保つために不可欠です。
さらに、直葬後の供養や納骨の方法についても、事前に家族で話し合い、故人の遺志や遺族の希望に沿った形を検討する必要があります。
お墓を持たない散骨や樹木葬、手元供養など、新しい供養の形も選択肢に入れることができるでしょう。
そして、忘れてはならないのが、費用以外の負担です。
周囲からの理解を得るための精神的な負担や、葬儀後の煩雑な手続き、そして何よりも故人の死を受け止め、悲しみを乗り越えるための心のケアは非常に重要です。
直葬という選択は、あくまで見送りの「形式」の一つです。
大切なのは、どのような形であれ、故人を偲び、遺族が納得できる方法でお別れをし、その後の人生を歩んでいくことです。
この記事が、お通夜も葬式もやらないという選択肢について深く理解し、ご自身や大切な方にとって最良のお見送りの形を見つけるための一助となれば幸いです。