大切な方を亡くされたとき、ご遺族の悲しみは計り知れません。
そんな中、故人様のお顔を安らかに整えるために行われるのが、葬儀屋さんが行うメイクです。
これは単に見た目を整えるだけでなく、故人様への最後のケアであり、ご遺族が心を落ち着け、穏やかに故人様と向き合うための大切な時間でもあります。
この記事では、葬儀の現場で専門家が行うメイク、通称「エンゼルメイク」について、その内容や目的、具体的な方法、そしてご遺族が知っておくべきことなどを詳しく解説します。
故人様を温かく見送るための準備として、ぜひ最後までお読みください。
葬儀屋さんが行うメイク「エンゼルメイク」とは？その目的と意義
葬儀の場で故人様に行われるメイクは「エンゼルメイク」と呼ばれています。
これは単なる化粧ではなく、故人様が生前のお姿に近づき、安らかで穏やかな旅立ちができるように施される特別なケアです。
エンゼルメイクの最大の目的は、故人様のお顔を清らかに整え、ご遺族が安心して最後の別れを告げられるようにすることにあります。
人は亡くなると、どうしてもお顔色や表情に変化が現れます。
エンゼルメイクは、そうした自然な変化を穏やかに補正し、まるで眠っているかのような安らかな表情を創り出すことを目指します。
これにより、ご遺族は故人様との楽しい思い出や、生前の元気だった頃のお姿を思い出しやすくなり、深い悲しみの中でも少しでも心が癒されることに繋がります。
エンゼルメイクは、故人様の尊厳を守り、ご遺族の心に寄り添うための、葬儀における非常に重要なプロセスの一つなのです。
エンゼルメイクの基本的な内容と目的
エンゼルメイクの基本的な内容は、お顔の洗浄、保湿、そして必要に応じたメイクアップです。
まず、故人様のお顔を丁寧に拭き清め、乾燥を防ぐために保湿クリームなどで肌を整えます。
その上で、お顔色を自然に見せるためのファンデーションやパウダー、血色を良く見せるためのリップやチークなどが施されます。
男性の場合も、健康的なお顔色に見せるための軽いメイクが行われることがあります。
また、お顔の傷や変色などがある場合には、それを目立たなくするための特別な技術が用いられることもあります。
エンゼルメイクの目的は、故人様を「綺麗に着飾る」ことではなく、「生前の安らかなお顔に戻す」こと、そして「ご遺族が故人様のお顔を見て穏やかな気持ちになれるようにすること」にあります。
そのため、派手なメイクではなく、ごく自然で控えめな仕上がりが基本となります。
例えば、お顔色が少し悪くなっている場合には、肌色に近いファンデーションで自然な血色感をプラスしたり、唇の色が薄くなっている場合には、薄いピンクやベージュ系のリップで血色を補ったりします。
目元は優しく閉じているように整え、髪の毛も綺麗に梳かして整えます。
これらのケアを通して、故人様がまるで穏やかに眠りについているかのような、安らかなお顔立ちに整えることが目指されます。
湯灌や死化粧との違い、専門家によるケア
葬儀の現場で行われる故人様へのケアには、エンゼルメイクの他に「湯灌（ゆかん）」や「死化粧（しげしょう）」といった言葉を聞くことがあるかもしれません。
これらは故人様を清め整えるという点では共通していますが、それぞれ目的や内容が異なります。
湯灌は、故人様のお身体を洗い清める儀式的な意味合いが強いケアです。
専用の浴槽を用いて、まるで生きている時のように温かいお湯で全身を洗い、身支度を整えます。
一方、死化粧は故人様に施す化粧全般を指す広い言葉で、エンゼルメイクも死化粧の一つと言えます。
しかし、葬儀社が専門的に行うエンゼルメイクは、単に化粧をするだけでなく、お身体の状態を考慮した上での清拭や保湿、そして故人様の生前のお姿を偲ばせるような、より自然で専門的な技術を用いたメイクを指すことが多いです。
葬儀社のエンゼルメイクは、専門的な知識と技術を持ったスタッフや納棺師によって行われます。
彼らは故人様のお身体の状態を正確に把握し、乾燥や変色、傷などに対して適切な処置を行いながらメイクを進めます。
例えば、長期間の療養で皮膚が乾燥している場合には、念入りな保湿を施してからメイクを始めたり、お顔に医療処置の跡がある場合には、特殊なファンデーションなどを用いて目立たなくする技術を駆使したりします。
専門家だからこそできるきめ細やかなケアと高度な技術によって、故人様はより安らかなお顔立ちで旅立つことができるのです。
湯灌は儀式としての側面が強く、お身体を清めることが中心ですが、エンゼルメイクは湯灌の後や、湯灌を行わない場合でも、お顔を中心に故人様を美しく整えることに特化しています。
専門家によるこれらのケアは、ご遺族が故人様との最後の時間を穏やかに過ごせるように、心を込めて行われます。
葬儀メイクは誰が、いつ、どのように行う？専門性と流れ
葬儀の現場で故人様に行われるエンゼルメイクは、特別な技術と知識を要する専門的な処置です。
誰が、いつ、どのような流れで行うのかを知ることは、ご遺族が安心して故人様をお任せするためにも重要です。
エンゼルメイクは、故人様のお身体の状態やご遺族の希望に合わせて行われ、そのタイミングや担当者は状況によって異なりますが、常に故人様への深い敬意とご遺族への配慮を持って進められます。
専門的な訓練を受けたスタッフが、故人様が生前と変わらぬ、あるいはそれ以上に穏やかで安らかなお顔で旅立てるよう、心を込めてお手伝いします。
エンゼルメイクは、故人様とご遺族にとって、最後の尊厳ある時間を作り出すための大切なステップなのです。
エンゼルメイクを担当する専門家とタイミング
エンゼルメイクを担当するのは、主に葬儀社の専門スタッフや提携している納棺師（おくりびと）です。
納棺師は、故人様の旅立ちの身支度全般を行うプロフェッショナルであり、エンゼルメイクはその業務の重要な一部です。
彼らは、故人様のお身体の状態を適切に判断し、最適なケアを施すための専門知識と技術を持っています。
また、看護師がエンゼルケアの一環として病院で行うこともありますが、葬儀社に引き渡された後は、葬儀社のスタッフや納棺師が最終的な整容を行います。
エンゼルメイクを行うタイミングは、通常、ご遺体を寝台車で搬送し、安置施設やご自宅にご安置した後、納棺の儀式の前に行われることが多いです。
しかし、故人様のお身体の状態によっては、搬送前に病院で行われることもありますし、湯灌を行う場合は湯灌の後に行われます。
どのタイミングで行うにしても、ご遺族が故人様とゆっくり対面し、最後の別れを惜しむことができるように、十分に配慮された上で行われます。
葬儀社との打ち合わせの中で、エンゼルメイクを行うタイミングや内容について相談することができます。
ご遺族が希望する時間や場所があれば、可能な限り調整してもらうことも可能です。
専門家は、故人様とご遺族にとって最良の形で、エンゼルメイクを行うためのサポートをしてくれます。
状態に合わせた対応と具体的な技術
故人様のお身体の状態は様々です。
病気や事故、あるいは長い療養期間を経てお亡くなりになった場合など、お顔色や皮膚の状態、傷の有無などは一人ひとり異なります。
エンゼルメイクの専門家は、故人様それぞれの状態に合わせて、適切なケアとメイク技術を施します。
例えば、お顔色が黄色っぽくなっている場合には、それを補正するためのカラーコントロール効果のある下地やファンデーションを使用したり、青っぽくなっている部分には温かみのある色味をプラスしたりします。
乾燥がひどい場合には、メイク前にしっかりと保湿を行い、ファンデーションが粉っぽくならないように工夫します。
また、お顔に傷がある場合には、コンシーラーや特殊なメイク用品を用いて、傷跡が目立たないように丁寧にカバーします。
専門家は、単に化粧品を塗るだけでなく、故人様の生前のお写真などを参考にしながら、その方らしいお顔立ち、そして最も安らかな表情を引き出すための技術を駆使します。
例えば、口元が少し開いている場合には、自然に閉じるように整えたり、頬がこけてしまっている場合には、自然な丸みが出るようにメイクで陰影をつけたりすることもあります。
髪の毛も、生前の分け目やヘアスタイルに合わせて丁寧に整えられます。
これらの技術は、長年の経験と専門的な研修によって培われたものであり、故人様を尊厳を持って送るために不可欠なものです。
ご遺族が故人様のお顔を見て「ああ、いつものお顔だ」「安らかに眠っているようだ」と感じられるように、専門家は細部にまで心を配り、丁寧に作業を進めます。
費用や化粧品、男性メイクなど葬儀メイクに関する疑問を解消
エンゼルメイクは、故人様への最後のケアとして非常に重要ですが、初めて葬儀を経験される方にとっては、費用や使用する化粧品、男性の場合のメイクなど、分からないことや疑問に思うことも多いかもしれません。
これらの疑問を解消しておくことで、安心して故人様をお任せし、納得のいく形で旅立ちを見送ることができます。
エンゼルメイクに関する疑問は、葬儀社の担当者に遠慮なく質問することが大切です。
ここでは、よくある疑問について詳しく解説していきます。
エンゼルメイクに関する正しい知識を持つことは、故人様への最期の愛情表現の一つであり、ご遺族自身の心の整理にも繋がります。
エンゼルメイクの費用はどれくらい？
エンゼルメイクの費用は、葬儀社やプランによって異なります。
湯灌に含まれている場合や、基本的なメイクはプランに含まれている場合、あるいはオプションとして別途費用がかかる場合があります。
オプション料金として設定されている場合、一般的には数万円程度が目安となることが多いようです。
ただし、故人様のお身体の状態によっては、特別な処置が必要となり、費用が変動することもあります。
例えば、お身体の損傷が大きい場合や、長時間の処置が必要な場合などが考えられます。
葬儀プランに含まれているか、オプションか、そしてその場合の具体的な費用については、必ず事前に葬儀社の担当者から説明を受け、確認することが重要です。
見積もりの中にエンゼルメイクに関する項目が含まれているか、含まれていない場合は費用はいくらかかるのかなどを明確にしておきましょう。
予期せぬ費用が発生しないように、契約前にしっかりと確認しておくことが、後々のトラブルを防ぐためにも大切です。
どんな化粧品が使われる？遺族の持ち込みは？
エンゼルメイクで使用される化粧品は、主に葬儀社がエンゼルメイク用に用意している専用の化粧品です。
これらの化粧品は、故人様の肌質や状態に配慮され、自然な仕上がりになるように選ばれています。
通常の化粧品とは異なり、時間の経過による変化にも強く、安らかなお顔立ちを保つための工夫が凝らされているものもあります。
具体的には、肌色を補正するためのファンデーションやコンシーラー、血色を良く見せるためのリップやチークなどが使用されます。
多くの葬儀社では、故人様のお顔色に合わせて色を調整できるパレットタイプのファンデーションなど、専門的なアイテムを用意しています。
また、ご遺族が「故人が愛用していた化粧品を使ってほしい」と希望される場合もあるかと思います。
多くの葬儀社では、ご遺族が持ち込まれた化粧品を使用してメイクを行うことも可能です。
故人様が生前使っていた口紅やチークなどを最後に使ってあげたいというお気持ちは、故人様への深い愛情の表れです。
ただし、故人様の状態によっては、持ち込まれた化粧品だけでは対応が難しい場合もありますので、まずは葬儀社の担当者に相談してみましょう。
専門家が、持ち込まれた化粧品と葬儀社で用意している化粧品を組み合わせて使用するなど、最善の方法を提案してくれます。
男性の場合のメイクはどう違う？
男性の場合のエンゼルメイクも、女性の場合と同様に故人様を安らかなお顔立ちに整えることが目的です。
ただし、女性のように華やかに着飾るのではなく、あくまでも自然で健康的なお顔に見えるように施されます。
具体的には、まずお顔や髭剃りの跡などを丁寧に整えます。
肌の乾燥を防ぐために保湿を行い、血色が悪く見えないように、ごく薄いファンデーションやパウダーで肌色を補正します。
唇が乾燥している場合には、リップクリームや色味のないリップバームなどで潤いを与え、健康的な口元に見えるようにします。
男性の場合のメイクは、女性のような色味を強調するものではなく、肌の質感を整え、全体的に血色良く、清潔感のある印象に仕上げることに重点が置かれます。
例えば、少し青みがかった髭剃り跡を目立たなくするために、肌色補正効果のある下地を使ったり、顔色が優れない場合に、ごく自然な色味のチークやリップで血色をプラスしたりします。
専門家は、故人様が生前どのような雰囲気の方だったか、ご遺族はどのようなお顔立ちを望んでいるかなどを丁寧に伺いながら、その方に最もふさわしい自然なメイクを施します。
もちろん、男性の場合もメイクをしないという選択も可能です。
ご遺族の希望を最優先に、故人様にとって最も良いと思われる方法が取られます。
メイクをしない選択肢もある？遺族の意思
エンゼルメイクは、故人様を安らかに送るための大切なケアですが、必ずしも行わなければならないものではありません。
ご遺族の中には、故人様のありのままのお姿を見送りたい、あるいは特定の宗教的・文化的な理由からメイクを望まないという方もいらっしゃいます。
エンゼルメイクを行うかどうかは、最終的にご遺族の意思が尊重されます。
葬儀社は、エンゼルメイクの意義や内容について丁寧に説明しますが、強制するようなことはありません。
もしメイクを希望されない場合は、その旨をはっきりと葬儀社の担当者に伝えましょう。
その場合でも、お顔の清拭や保湿、髪の毛を整えるといった基本的なケアは丁寧に行われます。
故人様をどのように送るかという選択は、ご遺族にとって非常に個人的で大切な決断です。
メイクをするかしないかに関わらず、故人様への感謝と愛情を持って見送る気持ちが最も重要です。
葬儀社は、ご遺族の様々な思いに寄り添い、故人様にとって最善の方法で旅立ちの準備をサポートします。
迷いや不安がある場合は、遠慮なく担当者に相談し、納得のいく選択をすることが大切です。
故人様を安らかなお顔で送るために 遺族が知っておきたいこと
故人様を安らかなお顔で送る
