大切な方が亡くなられた際、弔いの気持ちを伝える手段の一つに香典があります。
香典は、故人への供養の気持ちと、遺族への経済的な助け合いの意味合いが込められています。
しかし、いざ香典を用意するとなると、「書き方はこれで合っている?」「どんなペンを使えばいいの?」と悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。
特に、葬儀香典の書き方、ペン選び、そしてそれに伴うマナーは、故人や遺族への敬意を示す上で非常に重要です。
この記事では、香典の書き方における基本的なルールから、適切なペンの選び方、そして知っておくべきマナーまで、あなたが自信を持って香典を用意できるよう、詳しく解説していきます。
故人を偲び、遺族に寄り添う気持ちを伝えるために、ぜひこの記事をお役立てください。
葬儀の香典、なぜ書き方が重要なのか?
葬儀における香典は、単にお金を包むだけでなく、故人への哀悼の意と、遺族への心遣いを形として表すものです。
そのため、香典袋の選び方から、そこに記す文字、そして使用する筆記具に至るまで、一つ一つに意味とマナーが存在します。
これらの書き方や選び方を間違えてしまうと、せっかくの弔いの気持ちが十分に伝わらなかったり、かえって失礼にあたったりする可能性もゼロではありません。
特に、不慣れな方が多い薄墨の書き方や、どのようなペンを使うべきかという点は、多くの方が疑問に思うポイントです。
適切な方法で香典を用意することは、故人への最後の敬意を示すとともに、悲しみの中にいる遺族に対する最低限の礼儀と言えるでしょう。
ここでは、香典袋の基本的な書き方と、なぜその書き方が大切なのかについて掘り下げていきます。
香典袋の表書き、基本のルール
香典袋(不祝儀袋)の表書きは、香典の目的を示す最も重要な部分です。
一般的に、通夜や葬儀・告別式に持参する場合は「御霊前」と書くことが多いですが、これは仏式の多くの宗派で用いられる表現です。
ただし、浄土真宗では故人はすぐに仏になるという考え方から「御霊前」は使わず、「御仏前」とします。
また、仏式全般で使える無難な表書きとしては「御香典」があります。
これは、香(線香やお焼香)を供える代わりにお金を包む、という意味合いから来ており、宗派を問わず広く使われています。
神式では「御玉串料」「御榊料」「御神前」、キリスト教式では「お花料」「御ミサ料」など、宗教によって適切な表書きが異なります。
迷う場合は「御香典」を選ぶのが最も一般的で間違いが少ないでしょう。
水引についても触れておくと、香典には二度と繰り返したくないという意味合いから「結び切り」の水引が用いられます。
色は黒白が一般的ですが、高額な香典の場合は双銀の水引を使うこともあります。
蓮の花の絵柄が入った香典袋は仏式専用ですので、他の宗教の場合は蓮のないものを選びましょう。
これらのルールを知っておくことで、故人の宗教や宗派に配慮した適切な香典袋を選ぶことができ、遺族への心遣いをより丁寧に伝えることにつながります。
薄墨で書く理由と意味
香典袋の表書きや氏名を書く際に、薄墨の筆や筆ペンを使うのがマナーとされています。
この薄墨にはいくつかの由来や意味があると言われています。
一つは、「悲しみの涙で墨が薄まってしまった」という説です。
突然の訃報に接し、悲しみに打ちひしがれて急いで駆けつけたため、墨をしっかりと磨る時間もなく、涙で墨が薄くなってしまった、という情景を表しているとされます。
もう一つは、「急な知らせに慌てて駆けつけたため、墨を磨る時間がなかった」という説です。
どちらの説も、故人の死を悼み、急いで駆けつけたという深い悲しみや弔意を表現しています。
現代では、薄墨専用の筆ペンが広く普及しており、これを使うことで手軽に薄墨の文字を書くことができます。
この薄墨で書くという行為自体が、故人の死を悼み、悲しみを共有するという弔意の表れとなるのです。
ただし、四十九日を過ぎた法要など、忌明け後の仏事では、悲しみが一段落したという意味合いから、濃墨で書いても良いとされる場合が一般的です。
しかし、通夜や葬儀・告別式においては、特別な理由がない限り、薄墨で書くのが正式なマナーとされています。
薄墨で書くことは、単なる形式ではなく、故人への最後の別れに際しての深い悲しみと弔意を形にする重要な行為なのです。
名前や住所の正しい書き方
香典袋の表書きの下段には、香典を持参した人の氏名を書きます。
氏名は、表書きよりも少し小さめの文字で、水引の中央下部分にフルネームで書くのが一般的です。
夫婦で一緒に香典を出す場合は、夫の氏名を中央に書き、その左隣に妻の名前だけを書きます。
連名で出す場合、たとえば兄弟や友人複数人で出す場合は、目上の方(または五十音順)から右から順に氏名を書いていきます。
3名程度までであれば連名で書いても問題ありませんが、それ以上の人数の場合は、代表者の氏名だけを中央に書き、「外一同」や「他〇名」などと添え、中袋や別紙に全員の氏名と金額を記載するのが一般的です。
会社として出す場合は、中央に代表者(例:○○株式会社 代表取締役)の氏名を書き、その右肩に会社名を小さめに記載します。
中袋がある場合は、中袋の表面中央に包んだ金額を記載し、裏面の左下部分に差出人の住所と氏名を書きます。
中袋がない場合は、香典袋の裏面の左下部分に住所と氏名を記載します。
住所も氏名も、楷書で丁寧に読みやすく書くことが大切です。
特に中袋の住所と氏名は、遺族が香典返しをする際に必要となる情報ですので、省略せずに正確に記載することが非常に重要です。
これらの書き方を守ることで、遺族が後々整理しやすくなり、余計な負担をかけることを避けることができます。
香典を書くペン選び、失敗しないためのポイント
香典袋に文字を書く際、どのようなペンを選ぶかは非常に重要です。
特に、薄墨で書くというマナーがあるため、適切な筆記具を選ぶ必要があります。
「どんなペンを使えばいいの?」「急に必要になったけど、手持ちのペンで大丈夫?」と迷う方も多いでしょう。
ここでは、香典を書く際に推奨される筆記具と、避けるべき筆記具、そしてそれぞれのインクの色について詳しく解説します。
適切なペンを選ぶことで、香典の書き方マナーをしっかりと守り、弔意を丁寧に伝えることができます。
薄墨ペンの種類と選び方
香典の表書きには、薄墨の筆記具を使うのが一般的です。
最も伝統的で正式なのは、硯で墨を磨って薄墨を作り、毛筆で書く方法ですが、現代では手軽に使える薄墨筆ペンが主流となっています。
薄墨筆ペンには、本物の筆のような毛筆タイプと、サインペンのようなフェルトペンタイプがあります。
毛筆タイプは、筆文字に慣れている方や、より丁寧な印象を与えたい場合に適しています。
線の太さや濃淡を調整しやすく、美しい筆文字を書くことができます。
一方、フェルトペンタイプは、筆文字が苦手な方でも扱いやすく、安定した太さの線が書けるのが特徴です。
墨の出方も比較的安定しており、滲みにくいものが多いです。
どちらのタイプを選ぶかは、個人の好みや筆文字の習熟度によりますが、最近では、筆文字が苦手な方でも自然な薄墨の文字が書けるように工夫されたフェルトペンタイプの薄墨ペンも多く販売されています。
購入する際は、試し書きをして、自分の書きやすいもの、インクの薄さが適切なものを選ぶと良いでしょう。
あまりに薄すぎても文字が読みにくくなってしまうため、適度な薄さで、かつ滲みにくいインクのものがおすすめです。
文具店だけでなく、コンビニエンスストアなどでも取り扱っている場合が多いので、急に必要になった際も探しやすいかもしれません。
筆ペン、万年筆、ボールペンは使える?
香典の表書きには、基本的に薄墨の筆記具が推奨されます。
では、手持ちの筆ペンや万年筆、ボールペンは使えるのでしょうか。
まず、濃墨の筆ペンについてです。
通夜や葬儀・告別式では薄墨がマナーとされていますが、四十九日以降の法要などでは濃墨の筆ペンを使っても問題ありません。
ただし、通夜・葬儀の際には、薄墨で書くこと自体が弔意を示すため、濃墨の筆ペンは避けるのが一般的です。
次に、万年筆やボールペンについてです。
これらの筆記具は、インクの色が濃すぎること、そして筆文字ではないことから、香典の表書きには不向きとされています。
特に、一般的な黒インクの万年筆やボールペンは、弔事にはカジュアルすぎるという印象を与えかねません。
また、薄墨で書くというマナーを守ることができません。
やむを得ず手元に薄墨ペンがない場合でも、可能であればコンビニなどで購入するのが望ましいでしょう。
どうしても筆記具が手に入らない場合は、濃墨の筆ペンや、それがなければ黒のサインペンなどで丁寧に書くことも考えられますが、これはあくまで最終手段として捉えるべきです。
基本的には、薄墨の筆ペン、または薄墨サインペンを用意するのが、香典の書き方マナーを守る上で最も適切な方法と言えます。
濃墨と薄墨、インクの色について
香典の書き方におけるインクの色は、弔事のマナーにおいて非常に重要な要素です。
前述の通り、通夜や葬儀・告別式では薄墨で書くのが基本です。
これは、悲しみを表すための伝統的な表現方法であり、故人や遺族への配慮を示す行為です。
薄墨の筆ペンやサインペンを使用することで、このマナーを簡単に守ることができます。
一方、四十九日を過ぎた後の法要などでは、忌明けとなり、悲しみが一段落したという意味合いから、濃墨で書くのが一般的となります。
この場合は、通常の濃墨の筆ペンや、黒のサインペンを使用します。
ただし、地域や家によっては、四十九日以降も薄墨で書く慣習が残っている場合もありますので、もし不安であれば事前に確認するか、薄墨で書いておけば失礼にはあたりません。
最も重要なのは、黒以外のインク、例えば青や赤、緑などの色付きのインクは絶対に避けるということです。
これらの色は、弔事にはふさわしくなく、マナー違反となります。
また、ラメ入りのインクや、特殊な加工がされたペンなども避けるべきです。
香典袋に記す文字は、故人への弔意、遺族への哀悼の気持ちを伝えるものですから、落ち着いた黒色(薄墨または濃墨)のインクで、丁寧に書くことが何よりも大切です。
インクの色一つにも、故人を偲び、遺族に寄り添う心が表れることを忘れてはいけません。
香典に関するその他のマナーと注意点
香典の書き方やペン選び以外にも、香典に関する様々なマナーや注意点が存在します。
これらを知っておくことで、より失礼なく、故人を偲び、遺族に寄り添う気持ちを適切に伝えることができます。
香典袋の準備が整ったら、次は中袋への記載や、複数人で香典を出す場合、そして宗教による細かな違いについても確認しておきましょう。
これらの点に注意を払うことで、香典を渡すという一連の行為が、故人への敬意と遺族への心遣いに満ちたものとなります。
中袋の書き方と金額の書き方
香典袋の中にさらに中袋が入っている場合、その中袋にも必要事項を記載します。
中袋は、香典として包んだ金額とお金を保護する役割、そして遺族が香典の整理や香典返しを行う際に、誰からいくらいただいたかを正確に把握するための重要な役割を果たします。
中袋の表面には、包んだ金額を記載するのが一般的です。
金額は、後で改ざんされることのないように、大字(だいじ)と呼ばれる旧字体で書くのが正式なマナーとされています。
例えば、壱(一)、弐(二)、参(三)、伍(五)、仟(千)、萬(万)などです。
「金〇萬円」のように記載します。
例えば、五千円であれば「金伍仟円」、一万円であれば「金壱萬円」、三万円であれば「金参萬円」となります。
ただし、最近では算用数字(アラビア数字)で書いても問題ないとする考え方も広まっていますが、より丁寧な印象を与えたい場合は、旧字体で書くことをお勧めします。
中袋の裏面には、差出人の住所と氏名を記載します。
住所は都道府県からマンション名、部屋番号まで省略せずに正確に書き、氏名もフルネームで記載します。
これは、遺族が香典帳を作成したり、香典返しを送ったりする際に必要不可欠な情報だからです。
中袋がない香典袋の場合は、香典袋の裏面の左下部分に直接、金額、住所、氏名を記載します。
金額、住所、氏名ともに、遺族が読みやすいように丁寧に書くことが、心遣いを示す上で非常に大切です。
複数人で香典を出す場合の書き方
家族、友人、職場などで複数人が共同で香典を出す場合、香典袋の書き方にはいくつかのパターンがあります。
夫婦で出す場合は、夫の氏名を中央に書き、その左に妻の名前のみを書くのが一般的です。
これは、夫婦は一家として連名とするという考え方に基づいています。
夫婦別姓の場合でも、この書き方で問題ありません。
友人や会社の同僚など、複数人で出す場合は、代表者の氏名を中央に書き、その左に他の人の名前を並べて書きます。
この際、目上の方から順に、または五十音順に右から左へ書くのがマナーです。
ただし、連名で書けるのは3名程度までが一般的です。
4名以上になる場合は、香典袋の表書きには代表者の氏名だけを書き、その左下に「外一同」や「他〇名」などと添えます。
そして、中袋、または別途用意した白無地の用紙に、香典を出し合った全員の氏名と、それぞれの包んだ金額(または合計金額)を記載して香典袋に同封します。
これにより、遺族は誰から香典をいただいたかを正確に把握し、香典返しなどの対応をスムーズに行うことができます。
会社として出す場合は、代表者名(役職名入り)を中央に書き、その右肩に会社名を小さく記載します。
職場一同で出す場合は、会社名(または部署名)を中央に書き、その下に「一同」と記載します。
この場合も、中袋や別紙に全員の氏名を記載するのが丁寧です。
複数人で出す場合でも、全員の弔意をまとめて伝える大切な機会ですから、誰の名前をどのように記載するか、事前に相談して決めておくことが望ましいでしょう。
宗教による書き方の違い
香典の書き方は、故人の宗教によって適切な表書きや水引が異なります。
これを理解しておくことは、故人や遺族の信仰に敬意を払う上で非常に重要です。
最も一般的な仏式では、通夜や葬儀・告別式では「御霊前」、四十九日以降の法要では「御仏前」と書くのが基本です。
ただし、浄土真宗では「御仏前」のみを用います。
水引は黒白または双銀の結び切りを使用し、蓮の花の絵柄が入った香典袋は仏式専用です。
神式では、不祝儀袋を使用しますが、水引は黒白または双銀の結び切りを用います。
表書きは「御玉串料(おたまぐしりょう)」「御榊料(おさかきりょう)」「御神前(ごしんぜん)」などが一般的です。
蓮の絵柄のものは使いません。
キリスト教式では、香典という呼び方をせず「お花料」と呼ぶのが一般的です。
カトリックでは「御ミサ料」と書くこともあります。
不祝儀袋に包みますが、水引は不要な場合が多く、用いる場合でも白一色や黒白の結び切りを使うことがあります。
十字架や百合の花の絵柄が入った専用の袋もあります。
故人の宗教が分からない場合は、仏式でも神式でもキリスト教式でも使える「御香典」と書くのが最も無難です。
これは、仏式以外でも線香の代わりに香料を供えるという意味合いで広く受け入れられています。
水引は黒白の結び切りを選べば、どの宗教でも大きく失礼にあたることは少ないでしょう。
事前に故人や遺族の宗教を確認できるのが一番良いですが、難しい場合は「御香典」と黒白の水引を選ぶことを覚えておくと安心です。
まとめ
葬儀における香典は、故人への弔意と遺族への心遣いを伝える大切なものです。
この記事では、香典の書き方における基本的なルールから、適切なペンの選び方、そして知っておくべき様々なマナーについて詳しく解説しました。
香典袋の表書きは、故人の宗教に合わせたものを選び、「御霊前」や「御香典」などを薄墨で丁寧に書くことが基本です。
特に、通夜や葬儀・告別式では、悲しみを表す薄墨を使用するのがマナーとされています。
薄墨で書くためのペンとしては、薄墨筆ペンや薄墨サインペンが便利です。
濃墨の筆ペンや万年筆、ボールペンは、通夜・葬儀においては避けるのが一般的です。
中袋がある場合は、金額を旧字体で、住所と氏名を正確に記載することも遺族への配慮となります。
複数人で香典を出す場合の連名の書き方や、宗教ごとの表書きの違いなど、細かなマナーを知っておくことで、より丁寧な弔意を示すことができます。
これらのマナーは、単なる形式ではなく、故人を偲び、悲しみの中にいる遺族に寄り添う気持ちを形にするためのものです。
心を込めて準備することが、何よりも大切と言えるでしょう。
もし迷った場合は、一般的なマナーを参考にしつつ、故人や遺族への敬意を第一に行動してください。