多くの方が経験する葬儀ですが、故人がエホバの証人の信者であった場合、一般的な日本の葬儀とは異なる点が多く、参列される方は戸惑うこともあるかもしれません。
どのようなマナーで臨めば良いのか、何に注意すれば失礼にあたらないのか、また、遺族として葬儀を執り行う立場であれば、どのような選択肢があり、一般の方へどのように案内すれば良いのか、気になることは尽きないでしょう。
この記事では、エホバの証人の葬儀マナーや、一般葬との違い、そして参列者と遺族それぞれの注意点について、分かりやすく丁寧にご説明します。
故人を悼み、遺族に寄り添うために、ぜひ最後までお読みください。
エホバの証人の葬儀とは？一般葬との基本的な違い
エホバの証人の葬儀は、故人を偲びつつも、聖書に基づいた慰めと復活への希望に焦点を当てる独特の形式を持っています。
日本の一般的な仏式や神式、あるいは他のキリスト教の葬儀とは、その目的や儀式において大きな違いが見られます。
彼らの信仰では、死は「眠り」のような状態と考えられており、故人の霊魂が不滅であるとは考えません。
そのため、故人の霊を供養したり、冥福を祈ったりするための儀式は行われません。
むしろ、故人が忠実に神に仕えた生涯を振り返り、聖書の教えを通して残された人々が慰めを得ること、そして将来の復活の希望を確認することに重きが置かれます。
この根本的な考え方が、葬儀の形式やマナーに大きく影響しています。
一般的な葬儀のように、故人のために何かをするというよりは、生きている者たちが神からの教えに励まされ、将来への希望を強めるための集まりという意味合いが強いのです。
エホバの証人の信仰と死生観
エホバの証人は、聖書を文字通りに解釈することを重視しており、その死生観も聖書に基づいています。
彼らは伝道の書9章5節にある「生きている者は自分が死ぬことを知っている。
しかし、死んだ者は何も知らない」という聖句などから、死は意識のない状態であると信じています。
つまり、死んだ後も魂だけが生き続けるといった考え方は持っていません。
このため、故人の魂を弔う、あるいは霊に語りかけるといった行為は行われません。
しかし、これは故人が忘れ去られるという意味ではありません。
彼らは将来、神の王国のもとで義人が地上に復活するという聖書の約束を固く信じています。
葬儀は、この復活の希望を改めて確認し、故人との再会を待ち望むための場でもあるのです。
死は終わりではなく、神の記憶の中に故人が生きており、適切な時に復活させてもらえるという確信が、遺族や会衆に大きな慰めを与えます。
この希望に満ちた死生観が、エホバの証人の葬儀が悲しみ一辺倒ではなく、むしろ希望に満ちた落ち着いた雰囲気で行われる理由の一つと言えるでしょう。
故人の生前の忠実な生き方が語られ、それが残された人々の励みとなることも、葬儀の重要な側面です。
葬儀の目的と形式
エホバの証人の葬儀は、主に二つの目的のために執り行われます。
一つは、故人の信仰生活を振り返り、その歩みを称賛することです。
これは故人を崇拝するという意味ではなく、故人が神への忠誠を示した模範的な生き方を、集まった人々が学ぶ機会とするためです。
もう一つは、聖書からの慰めと励ましを分かち合うことです。
特に死別という辛い経験をしている遺族や友人は、聖書の言葉から深い慰めと将来への希望を得ます。
葬儀の形式は非常に簡素で、時間は通常30分から長くても1時間程度と短めです。
式典は、聖書に基づく話、故人の生前の良い行いを振り返る話、そして聖書からの慰めの言葉という構成で行われることが一般的です。
会衆の長老や経験豊かな信者が話者となり、聖書に基づいた講話を行います。
特定の儀式、例えば焼香や献花、玉串奉奠、あるいはカトリックやプロテスタントで行われるような聖餐式や香炉を振る行為などは一切行われません。
音楽としては、エホバの証人が使用する「王国会館の歌」の中から、慰めや希望に関連した歌を歌うことがあります。
これらの歌は、聖書の教えに基づいた歌詞であり、参列者に希望や励みを与えます。
式典全体を通して、神への敬意と聖書の教えへの集中が保たれ、故人の霊を慰めるのではなく、生きている人々に慰めと希望を与えることに焦点が当てられます。
一般的な日本の葬儀との主な相違点
エホバの証人の葬儀と一般的な日本の葬儀には、いくつかの顕著な違いがあります。
最も大きな違いは、宗教的な儀式や習慣の有無です。
一般的な仏式葬儀では、読経、焼香、戒名や法名、位牌、仏壇、法要などが行われます。
神式では、玉串奉奠、祝詞奏上などが行われます。
キリスト教（プロテスタントやカトリック）でも、讃美歌斉唱、聖書朗読、祈り、聖餐式など独自の儀式があります。
しかし、エホバの証人の葬儀では、これらの儀式は一切行われません。
彼らはこれらの習慣を聖書に基づいていないと考えているためです。
また、香典や供花、弔電も基本的に辞退されます。
これは、聖書にそのような慣習の根拠がないことや、遺族に経済的・精神的な負担をかけたくないという配慮からです。
服装についても、一般的には黒や地味な色の喪服が基本ですが、エホバの証人の葬儀では、厳格な喪服の規定はなく、地味で控えめな服装であれば問題ありません。
ただし、派手な色や装飾品は避けるのが一般的です。
さらに、葬儀の時間も一般葬に比べてかなり短く、告別式のみで行われることがほとんどです。
通夜は行われません。
故人を称賛する場ではなく、神への崇拝と聖書からの慰めを得る場であるという目的の違いが、これらの形式や習慣の相違として現れています。
エホバの証人の葬儀に参列する際のマナーと注意点
エホバの証人の葬儀に参列する機会があった場合、一般的な葬儀とは異なる点があるため、事前にマナーや注意点を知っておくと安心です。
最も大切なのは、遺族の信仰や意向を尊重する姿勢です。
彼らの葬儀は、故人の霊を弔うための儀式ではなく、聖書からの慰めと励ましを得る集まりです。
そのため、一般的な葬儀で行われるような特定の宗教的な行為は行いません。
例えば、焼香や献花、合掌、数珠の使用などは不要です。
会場に入ったら、静かに席に着き、式典が始まるのを待ちます。
式典中は、話者の話に耳を傾け、聖書の言葉や故人の生涯から学ぶ姿勢が大切です。
もし、会衆の歌が歌われる場合は、歌集が用意されていることがありますので、歌えるようであれば一緒に歌うこともできますが、無理に歌う必要はありません。
式典の時間は短いため、集中して参加することが求められます。
また、会場によっては、エホバの証人の出版物などが置かれている場合がありますが、これらは自由に持ち帰って構いません。
分からないことがあれば、遺族や会場にいるエホバの証人の関係者に尋ねてみるのが最も確実な方法です。
服装や香典、供花について
エホバの証人の葬儀における服装は、一般的な葬儀ほど厳格な規定はありませんが、地味で控えめな服装が適切です。
男性であればダーク系のスーツに白いシャツ、地味なネクタイ、女性であればダーク系のスーツやワンピースなどが良いでしょう。
過度に肌を露出する服装や、派手なアクセサリー、濃い化粧は避けるべきです。
喪服である必要はありませんが、お祝い事を連想させる明るい色や華美な装いは控えるのがマナーです。
また、香典、供花、弔電は、基本的に辞退されます。
これは、前述の通り、聖書にそのような慣習の根拠がないことや、遺族に負担をかけたくないという彼らの意向によるものです。
遺族が辞退の意向を示している場合は、無理に渡そうとせず、その意向を尊重することが最も重要です。
もし、どうしても何か気持ちを表したいということであれば、後日、遺族の負担にならないような形で、個人的にお悔やみの言葉を伝えたり、落ち着いた頃に改めて連絡を取るなどの方法を検討するのが良いでしょう。
ただし、遺族によっては、遠方からの参列者など特定の状況で受け取る場合も全くないわけではありませんが、原則として辞退されると考えておくのが無難です。
式典中の振る舞いとタブー
エホバの証人の葬儀の式典中は、静粛な雰囲気の中で行われます。
参列者は、話者の話に集中し、静かに聞くことが求められます。
途中で席を立ったり、私語をしたりすることは控えるべきです。
また、一般的な葬儀で行われるような宗教的な儀式、例えば焼香や献花、合掌、数珠の使用などは、エホバの証人の信仰とは異なるため、これらを行うことはタブーです。
彼らの葬儀は、故人の霊を弔う場ではなく、聖書からの慰めと希望を得る場であるため、これらの行為は彼らの信仰を尊重しないことになります。
式典中は、静かに座って話を聞くか、会衆の歌があれば一緒に歌う程度に留めましょう。
スマートフォンを操作したり、写真を撮ったりする行為も慎むべきです。
また、故人の遺体が安置されている場合でも、遺体に対して特別な儀式を行うことはありません。
棺に手を合わせたり、顔を見たりすることは可能ですが、その際も静かに、遺族の邪魔にならないように配慮が必要です。
最も大切なのは、エホバの証人の信仰に基づく葬儀の形式を理解し、その場にふさわしい敬意を持った態度で臨むことです。
遺族への声かけや接し方
エホバの証人の葬儀に参列した際、遺族への声かけや接し方も、一般的な葬儀とは少し異なる配慮が必要になる場合があります。
一般的な葬儀では、「この度はご愁傷様です」「心よりお悔やみ申し上げます」といった定型的なお悔やみの言葉を述べることが多いですが、エホバの証人の信仰では、死は「眠り」であり、将来の復活の希望があるため、「ご愁傷様です」という表現が必ずしも適切でないと感じる遺族もいるかもしれません。
もちろん、遺族は悲しみの中にいますので、「大変でしたね」「お辛いでしょう」といった、遺族の気持ちに寄り添う言葉や、故人の生前の良い思い出を語ることは、大きな慰めになるでしょう。
しかし、「安らかにお眠りください」といった故人の霊魂の安寧を願う言葉や、故人の冥福を祈るといった、彼らの信仰とは異なる宗教観に基づく言葉は避けた方が無難です。
また、香典を辞退している遺族に対して、無理に金銭的な援助を申し出ることも控えるべきです。
遺族の意向を尊重し、静かに寄り添う姿勢が最も大切です。
葬儀の場では、長々と話し込むのではなく、簡潔に挨拶を済ませるのが良いでしょう。
後日、落ち着いた頃に改めて連絡を取り、遺族の話を聞いたり、日常生活で困っていることがあれば手助けを申し出たりするなど、長期的な視点で遺族をサポートする姿勢を示すことが、彼らにとって最も心強い支えとなることが多いようです。
エホバの証人の葬儀を執り行う遺族が知っておきたいこと
エホバの証人の信者である家族を亡くし、葬儀を執り行う遺族の方は、一般葬とは異なる形式に戸惑うことがあるかもしれません。
特に、故人がエホバの証人の信者であったことを知らない友人や会社関係者など、一般の方を参列者として招く場合は、事前の準備や案内が重要になります。
エホバの証人の葬儀は、遺族の悲しみを和らげ、聖書からの慰めを得るための集まりであると同時に、故人の信仰を尊重し、神への崇拝を中心に行われます。
そのため、世間一般の慣習に倣う必要はありません。
遺族は、会衆の長老や経験豊かな信者から、葬儀に関するアドバイスやサポートを受けることができます。
葬儀の場所や時間、内容についても、遺族の希望と会衆の助けを得ながら決定していきます。
一般の葬儀社に依頼する場合でも、エホバの証人の葬儀形式を理解しているか事前に確認し、不要なサービス（祭壇飾りや読経、香典返しなど）を勧められないよう、明確に自分たちの希望を伝えることが大切です。
また、参列される一般の方々に向けて、葬儀の形式やマナーに関する情報を分かりやすく伝えることで、参列者の戸惑いを減らし、スムーズな式典を行うことができます。
葬儀の場所と流れ
エホバの証人の葬儀は、特定の場所で行わなければならないという決まりはありません。
故人が普段から集会に出席していた王国会館で行われることが最も一般的ですが、遺族の意向や参列者の人数によっては、一般の葬儀会館や自宅で行われることもあります。
王国会館で行う場合は、会衆の兄弟姉妹が会場の設営や案内などを手伝ってくれるため、遺族の負担は比較的少ないでしょう。
葬儀会館を利用する場合は、エホバの証人の葬儀形式に対応できるか、事前に葬儀社に確認が必要です。
葬儀の流れは非常にシンプルです。
まず、参列者が着席し、式典が始まります。
冒頭で司会者から簡単な挨拶があり、その後、聖書に基づく講話が行われます。
話者は、故人の信仰生活を振り返り、その良い模範を話すとともに、聖書から死に関する慰めと将来の復活の希望について語ります。
講話の途中で、故人の生前の写真などが映し出されることもあります。
講話の後には、会衆の歌を歌う場合があります。
最後に、話者による結びの祈りがあり、式典は終了となります。
全体を通して30分から1時間程度で終わることが多く、通夜は行われません。
火葬は葬儀の後に行われるのが一般的ですが、宗教的な儀式は伴いません。
費用や連絡について
エホバの証人の葬儀は、一般の宗教的な儀式や習慣を行わないため、費用を抑えることができる傾向にあります。
例えば、戒名料やお布施、豪華な祭壇飾り、香典返しなどが不要だからです。
王国会館を使用する場合、会場費はかかりません。
葬儀会館を利用する場合は会場使用料や葬儀社のサービス料がかかりますが、必要なサービスだけを選択することで費用を抑えることができます。
遺族は、会衆の長老や経験豊かな信者から費用の目安や手配に関するアドバイスを受けることができます。
参列者への連絡については、訃報とともに、葬儀の日時、場所を伝えます。
その際、香典や供花、弔電を辞退する意向を明確に伝えることが重要です。
例えば、案内状や口頭で「誠に勝手ながら、故人の遺志により、御香典、御供花、御弔電は固く辞退させていただきます」といった文言を添えると良いでしょう。
また、一般の方に参列していただく場合は、エホバの証人の葬儀が一般的な葬儀とは異なること、特定の宗教儀式がないことなどを簡単に説明しておくと、参列者の戸惑いを減らすことができます。
例えば、案内状に「聖書に基づいた簡素な式典を行います。
特定の宗教儀式（焼香など）はございませんのでご了承ください」といった一文を添えることも有効です。
一般の方への配慮と情報提供
エホバの証人の葬儀に一般の方が参列される場合、彼らの信仰や葬儀の形式について知らないことがほとんどです。
そのため、遺族は一般の方への配慮として、事前に葬儀の形式や参列時のマナーについて情報提供を行うことが望ましいです。
例えば、葬儀の案内状に、香典・供花・弔電を辞退する旨を明記するだけでなく、式典の時間は短いこと、特定の宗教儀式（焼香や献花など）は行わないことなどを簡単に付け加えることができます。
また、会場に到着した際に、受付などで簡単な案内の紙を渡したり、口頭で説明したりすることも親切な対応と言えるでしょう。
その案内には、「私たちの葬儀は聖書からの慰めと希望に焦点を当てています」「故人の霊を弔う儀式は行いません」「静かに着席してお話を聞いていただければ幸いです」といった内容を含めると、参列者は安心して臨むことができます。
加えて、服装についても、喪服である必要はなく、地味な平服で構わないことを伝えておくと、参列者の負担を減らせます。
遺族は、一般の方々が故人を偲び、遺族に寄り添うために来てくださっていることに感謝し、彼らの気持ちを尊重しながらも、自分たちの信仰に基づく葬儀を理解してもらうための努力をすることが大切です。
これにより、参列者も遺族も、互いに気持ちよく故人を見送ることができます。
まとめ
エホバの証人の葬儀は、一般的な日本の葬儀とは異なり、聖書に基づいた簡素な形式で行われます。
故人の霊を供養するのではなく、故人の信仰生活を振り返り、聖書からの慰めと将来の復活の希望に焦点を当てることが主な目的です。
このため、焼香や献花、香典や供花、弔電といった一般的な習慣は行われません。
参列される方は、遺族の信仰と意向を尊重し、地味で控えめな服装で臨み、式典中は静かに話を聞くことが最も大切なマナーです。
特定の宗教儀式は行わないため、無理に一般的な作法に倣う必要はありません。
遺族の方は、会衆のサポートを得ながら、聖書に基づいた形式で葬儀を執り行うことができます。
一般の方を招く場合は、事前に葬儀の形式やマナーについて分かりやすく情報提供を行うことで、参列者の戸惑いを減らし、スムーズな式典を実現できます。
エホバの証人の葬儀は、故人を悼むとともに、残された人々が聖書の教えから希望と慰めを得るための大切な集まりです。
互いの立場を理解し、尊重し合うことで、故人を穏やかに見送ることができるでしょう。
