葬儀で故人に着せる服装選び方

大切なご家族との最期のお別れ。
その旅立ちの衣装を選ぶことは、遺族にとって故人への最後の贈り物であり、深い愛情を形にする大切な時間です。
しかし、どのような服装を選べば良いのか、伝統的なものから現代的なものまで選択肢がある中で迷ってしまう方も少なくありません。
この「葬儀で故人に着せる服装選び方」は、故人らしい旅立ちを願い、遺族が心穏やかに故人を送るための一助となるよう、様々な選択肢と選び方のポイント、そして準備の注意点について詳しくご紹介します。
故人を偲びながら、後悔のない選択をするための情報をお届けします。

目次

故人に着せる服装の主な選択肢とは?(伝統から現代まで)

故人様がこれから向かう旅路のために、どのような服装を準備するかは、遺族にとって非常に重要な選択です。
古くから伝わる伝統的な装束もあれば、故人様の個性や生前の願いを尊重した現代的な選択肢も増えています。
故人様をどのような姿で見送りたいか、またどのような旅立ちを願うかによって、選ぶ服装は変わってきます。
ここでは、故人に着せる服装の主な選択肢について、それぞれの特徴や背景を詳しく見ていきましょう。
故人様にとって最もふさわしい一着を見つけるための第一歩となります。

伝統的な死装束「経帷子(きょうかたびら)」について

日本の仏式葬儀において、故人に着せる最も一般的な伝統的な装束が経帷子(きょうかたびら)です。
経帷子は、白い木綿でできた単衣の着物で、経文が記されていることからこの名で呼ばれます。
この白い色は、死装束であると同時に、煩悩を洗い流し、再生・出発を意味するとも言われています。
経帷子とともに、故人の旅立ちに必要な「七つ道具」と呼ばれる小物も身につけさせることが一般的です。
これには、頭に巻く三角巾、手甲(てっこう)、脚絆(きゃはん)、足袋、わらじ、首から下げる頭陀袋(ずだぶくろ)、そして六文銭(現代では紙に印刷されたものが多い)などが含まれます。
これらの小物は、故人が冥土への旅を無事に遂げるための旅支度とされています。
経帷子は、多くの仏式葬儀で用いられ、その形式や意味合いは宗派によって若干の違いがある場合もありますが、故人を仏の世界へ送り出すための神聖な装いとして深く根付いています。
私自身の経験からも、多くの葬儀の場で経帷子が故人に着せられるのを見てきました。
遺族の方が故人の体に優しく経帷子の袖を通すお手伝いをされる際、そこに流れる静かで尊い時間は、故人への深い敬愛と別れを惜しむ気持ちが凝縮されているように感じられます。
伝統的な装束を選ぶことは、故人が古式ゆかしく、そして安らかに旅立てるようにという遺族の願いの表れでもあるのです。

現代的な選択肢「エンディングドレス」や「普段着」

近年では、伝統的な経帷子に代わる、あるいはそれに加えて、故人様らしい服装を選びたいという遺族が増えています。
その代表的なものが、エンディングドレスや故人様が生前愛用していた普段着です。
エンディングドレスは、故人の旅立ちのために特別にデザインされた衣装で、様々な色やデザインのものがあります。
白や淡い色合いのものが主流ですが、故人のイメージに合わせて華やかなものや、レースがあしらわれたものなど、バリエーション豊かです。
洋装のドレスだけでなく、和装のエンディングドレスも存在します。
一方、故人様が最もリラックスできた普段着や、お気に入りの服を選ばれるケースも非常に多くなっています。
例えば、故人様がいつも着ていたセーターやシャツ、趣味にまつわる衣装、あるいは旅行先で購入した思い出の服などです。
故人の個性や人柄を尊重し、生前の姿に近い形で送りたいという遺族の思いが、こうした現代的な選択肢を選ぶ大きな理由となっています。
特に、特定の宗教・宗派にこだわらない葬儀や、家族葬など親しい間柄で行われる葬儀では、形式よりも故人らしさを重視する傾向が顕著です。
私が納棺師として立ち会った葬儀でも、故人様が愛用していた着物や、若い頃の思い出が詰まったワンピースなどを、遺族の方が涙ながらに手渡してくださることがありました。
その服を着せながら、遺族の方が故人様との楽しかった思い出を語ってくださる時間は、故人様がどれほど愛されていたかを改めて感じさせられる瞬間です。
普段着を選ぶことは、故人様が安らかに、そして「いつもの自分」として旅立てるようにという、遺族の温かい願いが込められています。

宗教や宗派による服装の違い

故人に着せる服装は、故人様やご遺族の信仰する宗教や宗派によって異なる場合があります。
日本の葬儀で最も多い仏式では、先述の通り経帷子が一般的ですが、宗派によっては経帷子を着せない場合もあります。
例えば、浄土真宗では、故人は亡くなるとすぐに仏様になるという教えから、旅支度である経帷子を着せる必要がないとされています。
この場合、故人が生前愛用していた着物や洋服、または葬儀社が用意する白の浴衣などを着せることが多いようです。
神式では、故人に白い神衣(かむい)を着せるのが一般的です。
これは、神道において白が清浄な色とされているためです。
キリスト教では、特に決まった死装束はありません。
故人様が生前お気に入りだった服や、白や淡い色合いの服を着せることが多いようです。
故人様が女性であれば、ワンピースやドレス、男性であればスーツなどを選ばれることもあります。
無宗教形式の葬儀では、宗教的な決まりがないため、故人様が生前着たいと希望していた服や、遺族が故人様らしいと思う服を自由に選ぶことができます。
このように、宗教や宗派によって服装に対する考え方や慣習が異なるため、事前に確認しておくことが重要です。
もし故人様の宗教や宗派が不明な場合や、慣習に詳しくない場合は、葬儀社の担当者に相談することをお勧めします。
彼らは各宗教・宗派の慣習に精通しており、適切なアドバイスをしてくれます。
私自身も、納棺の前に必ずご遺族に宗教・宗派について確認し、それに合わせた服装や小物について説明するようにしています。
宗教的な背景を理解することは、故人様とご遺族にとって最も適切な旅立ちの支度をする上で欠かせません。

故人の服装を選ぶ際の重要なポイント(誰が、何を基準に?)

故人の旅立ちの装いを選ぶことは、遺族にとって非常に繊細で大切なプロセスです。
誰が選び、何を基準に判断するのか、様々な要素が絡み合います。
故人様の生前の希望を尊重することはもちろん、残されたご遺族の故人様への思いもまた、服装選びにおいて重要な要素となります。
また、故人様の体格の変化や状況に合わせた実用的な視点も欠かせません。
ここでは、故人の服装を選ぶ際に考慮すべき重要なポイントについて、具体的に掘り下げていきます。
これらのポイントを押さえることで、ご遺族が納得のいく、そして故人様にとって安らかな旅立ちの準備ができるでしょう。

故人の生前の希望やエンディングノートの確認

故人の服装を選ぶ際に、まず最も尊重すべきは故人様ご自身の意思です。
もし故人様が生前に、ご自身の旅立ちの服装について希望を話していたり、エンディングノートや遺言に記していたりする場合は、その内容を最優先に考慮しましょう。
近年、終活の一環として、ご自身の葬儀やお墓、そして旅立ちの服装について具体的にエンディングノートに書き記しておく方が増えています。
「この服を着て旅立ちたい」「この色の服が良い」「伝統的な経帷子が良い」「エンディングドレスが良い」など、故人様の希望が明確であれば、遺族は迷うことなく故人の願いを叶えることができます。
私が見てきた中でも、故人様が自分で選んだお気に入りの洋服を大切に保管しており、それを着せてほしいとエンディングノートに書かれていたケースがありました。
遺族の方は、故人様の几帳面さと、最期の瞬間まで自分らしさを大切にしていたことに改めて触れ、深い愛情を感じている様子でした。
もしエンディングノートが見つからない場合でも、生前に故人様と交わした会話の中で、服装について触れていたことがないか、家族で話し合ってみることも大切です。
「お父さんはいつもこのシャツが好きだったな」「お母さんはあの着物をとても大切にしていた」といった記憶が、服装選びの大きなヒントになることがあります。
故人の生前の希望を確認することは、故人への最後の敬意を示す行為であり、遺族にとっても後悔のない選択をするための重要なステップとなります。

遺族の意向や故人への思いを反映させる

故人様が生前に服装に関する明確な希望を残していなかった場合や、複数の選択肢がある場合は、残されたご遺族の意向や故人様への思いを反映させて服装を選ぶことになります。
故人様の人柄や趣味、人生を振り返り、「故人様にはこの服が一番似合うだろう」「故人様が安らかに旅立てるように」という願いを込めて選ぶことは、故人様への最後の愛情表現の一つです。
例えば、音楽が好きだった故人様には、お気に入りのバンドTシャツやライブグッズを一緒に納める、釣りが趣味だった故人様には、釣り竿を模した飾りを棺に入れるなど、服装と合わせて故人様らしさを表現することも可能です。
遺族が複数いる場合は、皆で話し合い、意見を出し合うことが大切です。
一人で抱え込まず、家族で故人様を偲びながら一緒に考える時間は、悲しみの中にあっても故人様との絆を再確認できる貴重な機会となります。
私自身、納棺の場で遺族の方が故人様の服を選びながら、「この服を着て旅行に行ったんだよ」「このセーターは娘が編んでくれたんだ」と、服にまつわる思い出を語ってくださる場面に立ち会うことがあります。
その服は単なる衣類ではなく、故人様の人生や家族との思い出が詰まった大切な品なのです。
遺族の皆様が故人様への感謝や愛情を込めて選んだ服装は、故人様にとって何よりも温かい旅立ちの装いとなるでしょう。
遺族の意向や故人への思いを尊重することは、形式にとらわれず、故人様らしい旅立ちを叶えるために非常に重要なポイントです。

体格や状況に合わせたサイズの選び方

故人に着せる服装を選ぶ際には、故人様の体格やご逝去後の状況に合わせて適切なサイズを選ぶことも重要なポイントです。
ご逝去後、故人様の体格は生前とは変化している場合があります。
特にむくみなどにより、生前着ていた服がきつく感じられることがあります。
そのため、故人様に負担をかけず、スムーズに着付けができるように、少しゆったりとしたサイズを選ぶのがおすすめです。
洋服を選ぶ場合は、普段着ていたサイズよりもワンサイズ大きめを選ぶと安心です。
着物の場合も、身幅や裄丈などを考慮し、ゆとりのあるものを選ぶと着付けやすくなります。
また、服装の素材やデザインも着付けのしやすさに影響します。
伸縮性のある素材や、前開きで着せやすいデザインのものを選ぶと、納棺師さんやご遺族が着付けを行う際にスムーズに進めることができます。
故人様にとって安らかで心地よい旅立ちの装いとするためには、見た目の美しさだけでなく、着付けの際の故人様の負担を最小限に抑えるための配慮が必要です。
もし服装選びに迷う場合は、葬儀社の担当者や納棺師さんに相談してみましょう。
彼らは故人様の体格や状況を考慮した上で、適切なサイズや素材について専門的なアドバイスをしてくれます。
私自身も、納棺の際には故人様の体格を拝見し、遺族の方が持参された服が着せられるかどうか、あるいは着せやすいかなどを確認し、必要であればアドバイスをさせていただいています。
故人様にとって最後の着替えですから、できる限り穏やかに、そして美しく整えて差し上げたいという思いを込めて、サイズ選びや着付けを行います。

後悔しないための服装選びの注意点と準備(サイズ、着付け、費用など)

故人の旅立ちの服装選びは、限られた時間の中で行われることが多く、慌ただしい状況の中で判断を迫られることも少なくありません。
だからこそ、事前にいくつかの注意点を知っておき、準備をしておくことが、後悔のない選択をするために非常に重要です。
服装の準備はいつ、誰が行うべきか、費用はどれくらいかかるのか、そして最も大切な着付けはどのように行われるのかなど、具体的な疑問や不安を解消しておくことで、心穏やかに故人様を送る準備を進めることができます。
ここでは、故人の服装選びにおける具体的な注意点と準備について詳しく解説します。

納棺師さんとの連携と着付けの実際

故人様に服装を着せる作業は、一般的に納棺の儀式の中で、納棺師さんによって行われます。
納棺師さんは、故人様の体を清め、身支度を整える専門家です。
服装の着付けも、故人様の尊厳を守りながら、安らかで美しい姿に整えるための大切な工程です。
ご遺族が故人様に直接触れ、最後の身支度を手伝いたいと希望される場合は、納棺師さんが丁寧にサポートしてくれます。
例えば、経帷子の場合、故人様の体に負担がかからないように納棺師さんが支えながら、遺族が袖を通すといった形で一緒に着付けを行うことができます。
洋服やエンディングドレスの場合も、故人様の体勢を整えながら、優しく着付けていきます。
納棺師さんは、故人様の体格や状態、そして遺族の意向を細やかに汲み取りながら、着付けを進めてくれます。
もし持参した服のサイズが合わない場合や、着付けが難しい素材の場合でも、納棺師さんはその場で最善の方法を考え、対応してくれます。
私自身、納棺師として様々な故人様やご遺族に接してきましたが、故人様に新しい旅立ちの服を着せる時間は、ご遺族にとって故人様との最後の触れ合いの瞬間であり、深い愛情を感じる大切な時間です。
納棺師さんに遠慮なく希望や不安を伝えることが、より良い旅立ちの準備につながります。
例えば、「この服に袖を通すのを手伝いたい」「このスカーフを巻いてあげたい」といった具体的な希望があれば、遠慮なく伝えてみましょう。
納棺師さんは、できる限り遺族の思いに寄り添い、その願いを叶える

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