葬儀屋さんが持つ仕事道具リスト

葬儀と聞くと、多くの方が厳粛な雰囲気や、故人様、ご遺族の悲しみを想像されるかもしれません。
その大切な時間、空間を支えているのが、葬儀社のスタッフの方々です。
彼らは、故人様を大切にお送りし、ご遺族が心穏やかにお別れできるよう、見えないところで様々な準備や配慮を行っています。
そのプロフェッショナルな仕事ぶりを支えているのが、多岐にわたる「葬儀屋さんが持つ仕事道具リスト」です。
普段、私たちが目にすることのないそれらの道具には、故人様への敬意やご遺族への深い配慮、そしてスムーズな儀式進行のための工夫が詰まっています。
今回は、葬儀という特別な場面で活躍する、葬儀屋さんの仕事道具に焦点を当て、彼らの仕事の奥深さに触れてみたいと思います。

目次

葬儀のプロフェッショナルが持つ必須の仕事道具

葬儀という儀式は、故人様をお預かりしてから、お通夜、告別式、火葬と、いくつかの段階を経て進行します。
それぞれの段階で必要となる道具は異なり、どれも故人様とご遺族にとって大切な時間を滞りなく進めるために欠かせないものばかりです。
プロの葬儀屋さんは、状況に応じて適切な道具を使い分け、故人様の尊厳を守り、ご遺族の気持ちに寄り添いながら仕事を進めていきます。
これらの道具一つ一つに、長年の経験と培われた技術が込められています。

故人様をお迎えし、安置するまでの重要な道具

病院やご自宅など、故人様がお亡くなりになった場所から葬儀社の施設やご自宅へお運びする際にまず必要となるのが、搬送用のストレッチャーや棺です。
これらの道具は、故人様を安全かつ丁寧に移動させるために不可欠であり、特に狭い場所や階段での搬送には、スタッフの技術と経験が求められます。
また、故人様を清潔な状態に保つための清拭用のタオルやアルコール、防水シーツなどもこの段階で重要な役割を果たします。
夏場など、温度管理が難しい時期には、ドライアイスや冷却シートが欠かせません。
これらの道具は、故人様を適切な状態で安置するために使用されます。
例えば、病院からお迎えにあがる際は、迅速かつ丁寧な対応が求められます。
ストレッチャーに乗せる際も、故人様のお体に負担がかからないよう細心の注意を払い、防水シーツを敷くことで予期せぬ事態にも対応できるよう備えます。
ドライアイスは、故人様のお体を冷やすために必要量を適切に判断して使用します。
これらの道具は、単に「運ぶ」「冷やす」ためのものではなく、故人様への最初期のケアであり、ご遺族にとって心の準備をする時間を作るための大切な準備なのです。
故人様を最初にお預かりするこの段階での道具の選定と使用方法は、その後の葬儀全体の印象を左右すると言っても過言ではありません。

尊厳を守り、お別れをサポートする納棺・湯灌の道具

故人様を棺に納める「納棺」や、お体を清める「湯灌」は、故人様を旅立ちの装束に整え、安らかなお顔でお見送りするための非常に重要な儀式です。
この際に使用される道具は、故人様の尊厳を守り、ご遺族が故人様との最期のお別れを心穏やかに迎えられるようにするための専門性の高いものばかりです。
具体的には、白装束や旅支度に必要な品々(杖、笠、手甲、脚絆、足袋など)、そして故人様のお顔立ちを整えるための薄化粧用の化粧品、カミソリ、爪切り、綿、脱脂綿などが挙げられます。
湯灌を行う場合には、専用の湯灌槽やシャワー、清拭剤、タオルなども必要になります。
私が以前担当した葬儀で、ご遺族様が故人様の生前の面影を強く希望されたことがありました。
その際、納棺師が故人様の愛用されていた化粧品をお借りし、まるで眠っているかのような自然な表情に整えられたのです。
これは、単に道具を使うだけでなく、故人様やご遺族の気持ちに寄り添うプロの技術と心遣いがあってこそ可能なことです。
カミソリや爪切り一つをとっても、故人様のお肌を傷つけないよう、細心の注意を払って使用されます。
これらの道具は、故人様を美しく、安らかな姿で送り出すための、まさに「最後の身支度」を整えるための大切なツールなのです。

厳粛な儀式を支える式典準備・運営の道具

お通夜や告別式といった式典を滞りなく進行させるためには、会場の設営から運営まで、様々な道具が必要です。
祭壇を飾り付けるための工具や脚立はもちろん、焼香を行うための焼香セット(香炉、炭、抹香、灰)、読経の際に使用するリンや木魚なども欠かせません。
式典の進行を司るためのマイクやスピーカーといった音響設備、会場を厳かに演出する照明器具、会葬者を誘導するための看板や案内表示、そして受付で使用する筆記具、香典帳、釣り銭なども重要な道具リストに含まれます。
私が経験した中には、急な会葬者の増加に対応するため、予備の椅子や焼香セットを素早く準備する必要が生じたこともありました。
このような状況でも慌てず対応できるのは、必要な道具が常に準備されており、スタッフ間で連携が取れているからです。
また、式典の雰囲気は、照明や音響によって大きく左右されます。
故人様やご遺族の意向に沿った空間を演出するために、これらの機材を適切に操作する技術も求められます。
受付で使用する香典帳は、ご遺族が後々、香典返しをする際に非常に重要な情報源となります。
そのため、記入漏れがないよう、筆記具は複数用意し、分かりやすい案内を心がけます。
これらの道具は、厳粛な儀式を円滑に進め、ご遺族が安心して故人様をお見送りできる空間を作り出すための、まさに舞台裏を支える必需品と言えるでしょう。

現場の「もしも」を支える多様なサポートアイテム

葬儀の現場では、計画通りに進むことばかりではありません。
予期せぬ事態や、ご遺族からの急な要望に対応するためには、様々なサポートアイテムが不可欠です。
これらの道具は、メインの儀式で使用される道具とは異なり、現場の状況に応じて柔軟に対応するための「もしも」に備えるためのものと言えます。
プロの葬儀屋さんは、常に最悪の事態を想定し、これらのサポートアイテムを準備しておくことで、どんな状況にも落ち着いて対応できるよう努めています。

状況に応じた柔軟な対応を可能にする通信・情報機器

現代の葬儀において、スマートフォンやトランシーバーといった通信機器は、現場スタッフ間の連携や外部との連絡に欠かせません。
広い葬儀会館や複数の会場がある場合、スタッフ同士がリアルタイムで情報共有できるトランシーバーは非常に有効です。
また、ご遺族との連絡、菩提寺様や関係各所との調整、さらには供花や供物の手配など、スマートフォンは情報伝達の要となります。
さらに、ノートPCやタブレット、モバイルルーター、プリンターなども、見積もり内容の確認、書類の作成、会葬者リストの管理、式典で使用する音楽の再生など、多岐にわたる用途で使用されます。
私が以前担当した葬儀では、急遽、遠方の親戚の方がオンラインで参列されることになり、急いでモバイルルーターとタブレットを準備し、スムーズに接続できたことで、ご遺族様から大変感謝されました。
このように、通信・情報機器は、現場での情報共有を円滑にするだけでなく、ご遺族の新たな要望にも迅速に対応するための重要なツールとなっています。
これらの機器を使いこなすスキルは、現代の葬儀屋にとって必須と言えるでしょう。

予期せぬトラブルを防ぎ、安全を守る備品

葬儀の現場では、様々な人が行き交い、機材の設営なども行われるため、安全管理は非常に重要です。
万が一の事態に備え、救急セットや常備薬を準備しておくことは、スタッフ自身や会葬者の体調不良に対応するために必要です。
また、急な停電に備えた懐中電灯、機材の不具合や簡単な修繕に対応するための工具セット、そして清掃や衛生管理のための清掃用具も欠かせません。
冬場の凍結や雨天時の滑りやすい床に備えて、滑り止めマットを用意している葬儀社もあります。
さらに、万が一の火災に備えて、消火器の設置場所を確認し、使用方法を把握しておくこともプロの責任です。
以前、葬儀中に会葬者の方が急に体調を崩されたことがありましたが、救急セットがすぐに手の届く場所に準備されていたため、迅速に応急処置を行うことができ、大事に至りませんでした。
これらの備品は、普段は目立たないかもしれませんが、「もしも」の時に人命や安全を守るための、非常に重要な役割を果たしています。
プロの葬儀屋は、常に現場の安全に気を配り、これらの備品を適切に管理しています。

遺族の心に寄り添うための細やかな気配り道具

葬儀は、ご遺族にとって心身ともに大きな負担のかかる出来事です。
プロの葬儀屋さんは、儀式の進行だけでなく、ご遺族の心情に寄り添い、少しでも負担を軽減できるよう細やかな気配りを忘れません。
そのための道具として、ハンカチやティッシュは、悲しみに暮れるご遺族にそっと差し出すことができます。
急なメモや連絡事項を書き留めるための筆記具、ご自身の数珠を忘れてしまった会葬者のための予備の数珠なども用意されていることがあります。
冬場の寒い時期にはカイロ、夏場には冷却シートといった体調を気遣うアイテムや、長時間座っているご遺族のために簡易座布団を用意することもあります。
さらに、打ち合わせの際や休憩時間に、温かい飲み物を提供するなど、細やかな心遣いがご遺族の心を和ませます。
私が担当したご遺族様の中には、故人様との思い出を話される際に涙が止まらなくなる方がいらっしゃいました。
その時に、何も言わずそっとハンカチを差し出しただけで、ご遺族様は「ありがとう」と涙ながらに微笑んでくださいました。
これらの道具は、高価なものではありませんが、ご遺族の気持ちに寄り添い、「あなたのそばにいますよ」というメッセージを伝えるための大切なツールなのです。
道具だけでなく、それを使うタイミングや声かけといった、プロの気配りが何よりも重要になります。

道具一つ一つに宿るプロフェッショナルとしての誇り

葬儀屋さんが持つ仕事道具は、単なる作業ツールではありません。
そこには、故人様への敬意、ご遺族への配慮、そして滞りなく大切な儀式を執り行うという、プロフェッショナルとしての強い責任感と誇りが宿っています。
長年、多くの葬儀に関わってきた経験豊富な葬儀屋ほど、道具に対するこだわりや、手入れに対する意識が高い傾向にあります。
道具を大切に扱うことは、故人様やご遺族を大切に思う気持ちの表れでもあるのです。

長年培われた経験が選ばせたこだわりの道具

葬儀屋さんは、様々なメーカーのストレッチャーや棺、設営用具などを実際に使用する中で、使いやすさ、耐久性、そして故人様への配慮という観点から、自分たちが最も信頼できる道具を選び出していきます。
特定のメーカーのストレッチャーは、軽量でありながら安定感があり、狭い場所でもスムーズに移動できるため、多くの葬儀社で愛用されています。
また、祭壇設営に使用する工具も、使い慣れたものであれば、短時間で正確な作業を行うことができます。
私が以前、ベテランの葬儀屋さんに伺った話では、「この筆記具は、もう何十年も使っているんだ。
これじゃないと、ご遺族の前で緊張せずに落ち着いて打ち合わせができないんだよ」
と、一本のボールペンを大切そうに見せてくださいました。
このように、道具には、その人の経験や技術、そして仕事への向き合い方が凝縮されているのです。
こだわりの道具は、プロの仕事をさらに質の高いものへと引き上げます。
それは、単なる機能性だけでなく、道具を通して感じる安心感や、長年の相棒としての信頼関係があるからこそ生まれるものです。

道具の手入れに見る葬儀屋の流儀

プロの葬儀屋さんは、仕事で使用した道具をそのままにせず、必ず丁寧に手入れを行います。
ストレッチャーや棺は、使用後に清拭し、常に清潔な状態を保ちます。
祭壇設営に使用した工具は、汚れを落とし、必要に応じてメンテナンスを行います。
焼香セットやリンといった仏具は、磨いて輝きを保ちます。
これらの手入れは、次にその道具を使用する故人様やご遺族のために、常に最善の状態を整えておくというプロ意識の表れです。
また、道具を大切に手入れすることで、道具への愛着が生まれ、さらに丁寧に扱うようになります。
これは、故人様やご遺族に対する丁寧な対応にもつながっていくと考えられます。
ある葬儀社のスタッフは、「道具は私たちの手足のようなものです。
手入れを怠れば、いざという時に最高のパフォーマンスを発揮できません。
常に感謝の気持ちを持って、ピカピカに磨いておくことが、故人様への礼儀であり、ご遺族への誠意だと思っています。
と語っていました。
道具の手入れは、単なる清掃作業ではなく、プロとしての心構えを映し出す鏡なのです。
常に最高の状態で道具を準備しておくことで、どんな状況にも自信を持って対応できるようになります。

まとめ

葬儀屋さんが持つ仕事道具は、故人様をお迎えするストレッチャーから、お体を整える納棺用具、そして式典を支える様々な備品、さらには現場の「もしも」に備えるサポートアイテムまで、実に多岐にわたります。
これらの道具一つ一つには、故人様への深い敬意と、悲しみの中にいるご遺族への細やかな配慮、そして滞りなく大切な儀式を執り行うためのプロフェッショナルとしての責任感が込められています。
単なる「物」ではなく、それを使う人の技術や経験、そして心が一体となって、はじめてその道具は本来の力を発揮します。
私たちが普段目にすることのないこれらの仕事道具を通して、葬儀という儀式が、いかに多くの準備と専門的な知識、そして何よりも温かい心によって支えられているのかを感じていただけたのではないでしょうか。
道具を知ることは、葬儀屋という仕事の奥深さ、そして「送る」という行為の尊さを知ることにつながります。
彼らが日々使用する道具は、故人様とご遺族にとって、最期の大切な時間を守るための、なくてはならない存在なのです。

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