多くの方にとって、葬儀は一生のうちにそう何度も経験するものではありません。
特に、故人の信仰していた宗派が異なると、その流れや作法に戸惑うことも少なくないでしょう。
日本仏教の主要な宗派の一つである浄土宗の葬儀も例外ではありません。
浄土宗の葬儀流れ順序とマナーについて、事前に知っておくことで、いざという時に落ち着いて故人を見送り、失礼のないように振る舞うことができます。
この記事では、浄土宗の葬儀がどのような特徴を持ち、どのような流れで進むのか、そして参列者や遺族として知っておくべきマナーについて、分かりやすく丁寧にご紹介します。
故人を偲び、安らかに極楽浄土へ送り出すために、浄土宗の教えに基づいた葬儀の意義を理解し、心穏やかに葬儀に臨むためのお手伝いができれば幸いです。
浄土宗の葬儀とは?特徴と他の宗派との違い
浄土宗は、法然上人によって開かれた宗派であり、その教えの根幹は「南無阿弥陀仏」とお念仏を称えることにあります。
阿弥陀仏の本願を信じ、一心にお念仏を称えれば、誰でも必ず極楽浄土へ往生できるという、大変分かりやすく、多くの人々に受け入れられた教えです。
この教えは、浄土宗の葬儀にも色濃く反映されています。
他の宗派の葬儀では、故人が仏様の弟子となるための儀式や、厳しい修行を経て悟りを開くことを目的とする要素が含まれることもありますが、浄土宗の葬儀は、阿弥陀仏の慈悲にすがり、故人がお念仏によって速やかに極楽浄土へ往生することを願う儀式が中心となります。
故人が迷うことなく、阿弥陀仏のお迎えを受けて浄土へ旅立てるよう、参列者一同がお念仏を称え、心を一つにすることが非常に大切にされます。
この「お念仏」を最重要視する点が、浄土宗の葬儀の最大の特徴と言えるでしょう。
阿弥陀仏への帰依と「お念仏」の重要性
浄土宗の教えでは、私たちは自身の力(自力)で悟りを開くことは難しいと考えます。
そこで、阿弥陀仏という仏様の大きな力(他力)にすがり、その救いによって極楽浄土へ往生することを目指します。
そのために最も大切な行いが「お念仏」、つまり「南無阿弥陀仏」と一心に称えることです。
このお念仏は、単なる言葉の繰り返しではなく、「阿弥陀仏にすべてをお任せします、お助けください」という、阿弥陀仏への深い信頼と帰依の心を表しています。
浄土宗の葬儀においては、このお念仏が儀式の中心に据えられます。
導師(僧侶)だけでなく、参列者全員が心を込めてお念仏を称えることで、故人の往生を後押しし、阿弥陀仏との結縁を深めるのです。
ご住職から以前伺った話ですが、お念仏は声に出すことで、自分自身の心にも阿弥陀仏の光が届き、故人への供養と同時に自らの救いにも繋がるのだと教えていただきました。
だからこそ、浄土宗の葬儀では、厳かな読経とともに、参列者の念仏の声が響き渡るのが特徴的な光景となります。
浄土宗の葬儀に込められた願い
浄土宗の葬儀は、故人の冥福を祈るだけでなく、故人が無事に阿弥陀仏の極楽浄土へ往生することを願う儀式です。
この願いは、単に故人を送り出すという意味合いだけでなく、残された人々がお念仏を通して故人と共に阿弥陀仏の救いの中にあることを実感し、悲しみを乗り越える力とするという側面も持っています。
葬儀の中で行われる様々な儀式は、故人がこの世への執着を断ち切り、安心して旅立てるように、そして速やかに浄土へ迎え入れられるようにという、深い慈悲の心と具体的な手助けの表れです。
例えば、後述する引導の儀式は、故人に「迷わず浄土へ向かいなさい」と導く大切な作法です。
また、参列者全員で称える念仏一会は、故人の往生を願う皆の心が一つになる瞬間であり、その響きは阿弥陀仏への強い願いとなって届けられます。
浄土宗の葬儀は、故人のためであると同時に、遺された人々が阿弥陀仏の教えに触れ、生と死、そしてその先の救いについて深く考える機会でもあるのです。
葬儀を通して、故人も遺族も、阿弥陀仏の大きな慈悲に包まれていることを感じることができる、それが浄土宗の葬儀に込められた温かい願いと言えるでしょう。
浄土宗の葬儀流れ順序をステップごとに解説
浄土宗の葬儀は、他の宗派と同様に、ご臨終から始まり、通夜、葬儀・告別式、火葬、そしてその後の法要へと進んでいきます。
しかし、その流れの中で行われる儀式には、浄土宗ならではの特徴があります。
ここでは、一般的な葬儀の流れに沿って、浄土宗特有の儀式やその意味合いを詳しく見ていきましょう。
まず、ご臨終からご安置、そして枕経へと進む初期の段階では、故人が安らかに旅立てるよう、静かに見守りながら必要な手配を進めます。
その後、納棺を経て通夜が営まれます。
通夜は、故人と共に過ごす最後の夜であり、遺族や近親者が集まって冥福を祈る大切な時間です。
そして、葬儀・告別式が執り行われます。
浄土宗の葬儀・告別式は、故人の往生を願い、阿弥陀仏に帰依する心を新たにする最も重要な儀式です。
ここで行われる念仏一会や引導の儀式は、浄土宗の葬儀を特徴づける核心部分と言えます。
最後に、火葬を経て、遺骨をご安置し、還骨勤行をもって一連の葬儀の流れ