多くの方が人生で一度は参列する機会がある葬式。
故人への弔意を表す大切な場だからこそ、服装や振る舞いには細心の注意を払いたいものです。
特に男性の場合、スーツを着用することがほとんどですが、「スーツのボタンはどうするべき?」「すべて留めるのが正しいの?」「葬式でスーツのボタンを外すのはNG?」など、意外と知らないマナーが多く、不安に感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
普段のビジネスシーンとは異なる弔事のマナーは、知っているようで知らないことも多いものです。
この記事では、葬式におけるスーツのボタンマナーについて、その理由やシーン別の対応、さらにはスーツ着用時の基本マナーまで、詳しく解説します。
この記事を読めば、葬儀という厳粛な場にふさわしい装いで参列するための知識が身につきます。
葬式でスーツのボタン、正しい開閉マナーとは?
葬式に参列する際、男性が着用するブラックスーツ(喪服)も、基本的なスーツの着こなしマナーに則るのが一般的です。
しかし、普段のビジネスシーンとは異なり、弔事という特別な場においては、より慎み深く、失礼のない振る舞いが求められます。
そのため、スーツのボタン一つにも、場の雰囲気に合わせた配慮が必要となります。
ここでは、スーツの種類ごとに、葬式でのボタンの正しい開閉マナーについて詳しく見ていきましょう。
普段何気なく着ているスーツでも、葬式という場ではその着こなし方が故人や遺族への敬意を示す一つの要素となり得るのです。
シングルスーツの基本ルール
シングルスーツには、ボタンが2つのものと3つのものが主流です。
どちらの場合でも、基本的なボタンマナーは共通しています。
それは、「一番下のボタンは基本的に開けておく」というものです。
これは「アンボタンマナー」と呼ばれ、スーツの着こなしにおける基本的なルールとして広く知られています。
このマナーは、スーツが誕生したヴィクトリア朝時代に、当時の国王エドワード7世が太り気味で一番下のボタンを留められなかったことに由来すると言われています。
国王に倣って周囲の人々も一番下のボタンを開けるようになり、それが慣習として定着したという説が有力です。
葬式という場においても、このアンボタンマナーは適用されます。
つまり、2つボタンのスーツの場合は一番下のボタン、3つボタンの場合は一番下のボタンを開けておくのが基本となります。
真ん中のボタンは必ず留め、一番上のボタンは留めても開けてもどちらでも構いませんが、3つボタンの場合は一番上は開けておくのが一般的です。
葬式だからといって、すべてのボタンをきっちり留める必要はありません。
むしろ、アンボタンマナーを守ることで、スーツを体に馴染ませ、自然で美しいシルエットを保つことができます。
ただし、これは立っている時のマナーです。
座る際は、すべてのボタンを開けても構いません。
座ったままボタンを留めていると、スーツにシワが寄ったり、窮屈な印象を与えたりすることがあるためです。
ダブルスーツとベスト着用時の違い
ダブルスーツの場合、ボタンの数は一般的に4つまたは6つです。
ダブルスーツのボタンマナーは、シングルスーツとは少し異なります。
ダブルスーツの場合、基本的にすべてのボタンを留めるのが正しいマナーです。
一番下のボタンだけを開ける、ということはしません。
これは、ダブルスーツがもともと防寒着や軍服として生まれ、前をしっかりと閉じる構造になっているためです。
葬式という厳粛な場では、きちんと前を閉じたダブルスーツは、よりフォーマルで威厳のある印象を与えます。
ただし、飾りボタンがある場合は、それは留めません。
また、ダブルスーツもシングルスーツと同様に、座る際はすべてのボタンを開けても構いません。
次に、スリーピーススーツなどでベストを着用している場合です。
ベストを着用している場合は、スーツのジャケットのボタンはすべて開けておくのが一般的です。
これは、ベストがすでにきちんと感を演出しており、ジャケットのボタンを留める必要がないためです。
また、ジャケットのボタンをすべて開けることで、ベストがよく見え、スリーピースの着こなしが引き立ちます。
葬式という場においても、このマナーは適用されます。
ただし、ベストの一番下のボタンは開けておくのが基本です。
これは、ベストにもアンボタンマナーが存在するためです。
したがって、ベスト着用の際は、ジャケットのボタンはすべて開け、ベストの一番下のボタンは開けておく、というのが葬式での基本的なマナーとなります。
なぜそうするの?ボタンマナーの理由と背景
葬式という場において、なぜスーツのボタンに特定の開閉マナーがあるのでしょうか。
単なる形式的なルールのように思えるかもしれませんが、そこにはスーツの歴史や、弔事という場に対する配慮が込められています。
ボタンマナーを知ることで、その行動の背景にある意味を理解し、より自然に、自信を持って振る舞うことができるようになります。
ここでは、スーツのボタンマナーが生まれた一般的な背景と、それが葬式という場においてどのような意味を持つのかを深掘りしていきます。
マナーは、単に窮屈なものではなく、他者への配慮や敬意を表すための知恵なのです。
スーツボタンの一般的なマナーの由来
スーツのボタンマナー、特にシングルスーツの一番下のボタンを開ける「アンボタンマナー」の由来については、前述のイギリス国王エドワード7世のエピソードが有名です。
このエピソードが示唆しているのは、マナーが必ずしも厳格な規定から生まれたものではなく、意外と人間的な理由や時代の変化によって形作られてきた側面があるということです。
スーツが現代のような形になる過程で、デザインや機能性が変化し、それに伴って最も美しく、かつ動きやすい着こなし方が追求されてきました。
例えば、スーツのシルエットは時代によって変化しており、それに合わせてボタンの位置や数も調整されてきました。
一番下のボタンを開けることで、ウエスト周りにゆとりが生まれ、座ったり立ち上がったりする動作が楽になるという機能的な側面もあります。
また、現代のスーツは、一番下のボタンを留めることを想定していないパターンで作られていることが多く、無理に留めるとスーツのラインが崩れて不格好に見えてしまうことがあります。
つまり、アンボタンマナーは、歴史的な由来に加え、機能性や見た目の美しさを追求した結果として定着した、合理的な着こなし方とも言えるのです。
この一般的なスーツマナーが、フォーマルな場である葬式にも引き継がれていると考えられます。
弔事特有の配慮と意味
葬式という場は、故人を偲び、遺族に寄り添うための厳粛な機会です。
このような場では、参列者自身の服装や振る舞いが、故人や遺族に対する敬意を表すものとなります。
スーツのボタンマナーも、この弔事特有の配慮と無関係ではありません。
スーツのボタンを適切に留める(または開ける)ことは、だらしない印象を与えず、きちんとした身だしなみで参列していることを示すことにつながります。
特に、シングルスーツで一番下のボタンを開けておくアンボタンマナーは、知っている人にとっては「スーツの着こなしを理解している=TPOをわきまえている」という印象を与えます。
逆に、すべてのボタンを無理に留めていたり、立つべき場面でボタンを開けたままにしていたりすると、不自然に見えたり、だらしない印象を与えたりする可能性があります。
葬式では、服装だけでなく、立ち居振る舞いすべてにおいて「慎み深さ」が求められます。
ボタンを適切に管理することは、その「慎み深さ」の一部として捉えることができます。
例えば、焼香の際に深くお辞儀をする際、ボタンがすべて留まっていると窮屈そうに見えたり、逆にすべて開けっ放しだとだらしない印象を与えたりするかもしれません。
適切なボタンの開閉は、立ち姿や座り姿を美しく見せ、自然で落ち着いた振る舞いをサポートする役割も果たします。
このように、葬式でのボタンマナーは、一般的なスーツマナーを守ることに加えて、弔事という特別な場にふさわしい「きちんと感」と「慎み深さ」を表現するための配慮が込められていると言えるでしょう。
葬式での立ち居振る舞いとボタンの注意点
葬式に参列する際には、スーツのボタンだけでなく、立ち居振る舞い全体が故人や遺族への敬意を示すものとなります。
特に、立つ、座る、お辞儀をする、焼香するなど、様々な動作の中でスーツのボタンの状態は意外と目につくものです。
ここでは、葬式という場で遭遇する様々なシーンにおいて、スーツのボタンをどのように意識すればよいのか、具体的な注意点と共に解説します。
普段の生活ではあまり意識しない動作も、葬式では故人や遺族への配慮として、より丁寧に行うことが求められます。
ボタンマナーと立ち居振る舞いを合わせて理解することで、葬儀の場にふさわしい、落ち着いた印象を与えることができます。
シーンに合わせたボタンの意識
葬式では、受付での挨拶、会場への入退場、着席、焼香、出棺の見送りなど、様々なシーンがあります。
それぞれのシーンに合わせて、スーツのボタンを意識することが大切です。
基本的な考え方として、立っている時はスーツのボタン(シングルの一番下以外、ダブルのすべて)を留めるのがマナーです。
これにより、きちんとした印象を与え、だらしない姿を見せることを防ぎます。
例えば、受付で挨拶をする際や、会場内で立って待機している際などは、ボタンをしっかりと留めておきましょう。
一方、椅子に座る際は、スーツのボタンをすべて開けても構いません。
むしろ、座る際にボタンを留めたままだと、スーツに不自然なシワが寄ったり、生地に負担がかかったりするだけでなく、見た目にも窮屈な印象を与えてしまいます。
椅子に腰掛ける直前にボタンを開け、立ち上がる際に再びボタンを留める、というのが丁寧な振る舞いです。
ただし、最近では座っている間も一番上のボタンだけ留めておくなど、個人の習慣やスーツのフィット感によって多少柔軟な対応も見られます。
しかし、基本は立つ時に留め、座る時に開ける、と覚えておくと間違いありません。
この立ち座りの際のボタンの開閉は、葬式という場においても、普段のビジネスシーンと同様に意識すべき基本的なマナーです。
焼香や挨拶の際に気をつけること
葬式の中で特に注目される場面の一つが焼香です。
焼香は故人への最後の挨拶となる大切な儀式であり、多くの参列者が順番に行います。
焼香台に進み、故人に一礼し、焼香を行い、遺族に一礼して席に戻るという一連の動作の中で、スーツのボタンの状態にも注意が必要です。
焼香台に進む際は立っていますので、シングルスーツであれば一番下のボタン以外、ダブルスーツであればすべてのボタンを留めておくのが基本です。
焼香台の前で深くお辞儀をする際、ボタンがきちんと留まっていることで、背筋が伸び、より丁寧で改まった印象を与えることができます。
もしボタンが開いたままだと、お辞儀をした際にスーツの前がはだけてしまい、だらしない、あるいは軽薄な印象を与えかねません。
遺族への挨拶も同様です。
遺族に直接お悔やみの言葉を述べる際や、弔電などを渡す際など、対面して挨拶をする場面では、立っている状態であればボタンを留めておくことで、相手に失礼のない、きちんとした姿勢を示すことができます。
また、焼香を終えて席に戻り、着席する際にはボタンを開けて構いません。
このように、葬式という場での立ち居振る舞い、特に焼香や挨拶といった重要な場面では、スーツのボタンの状態一つが、故人や遺族に対する敬意を示す細やかな配慮となり得ます。
動作の一つ一つを丁寧に行うとともに、服装の乱れがないか意識することが大切です。
葬式で恥をかかないための服装・小物マナー
葬式におけるスーツのボタンマナーを理解したところで、次に知っておきたいのが、スーツ本体や合わせる小物に関するマナーです。
ボタンマナーと同様に、これらの服装や小物も、葬式という場にふさわしいものを選ぶことが、故人や遺族への敬意を示す上で非常に重要です。
普段ビジネスで着用しているスーツや小物とは異なる、弔事ならではのルールが存在します。
これらのマナーを知らずに参列してしまうと、意図せず失礼にあたったり、周りから浮いてしまったりする可能性があります。
ここでは、葬式に参列する際の服装や小物の基本マナー、そしてこれだけは避けたいNGな点について詳しく解説します。
喪服としてのスーツ選びと着こなし
葬式に参列する男性の服装は、基本的に「喪服」として用意されたブラックスーツを着用します。
ビジネスシーンで着るダークカラーのスーツ(黒、紺、チャコールグレーなど)とは異なり、喪服としてのブラックスーツは、より深い黒色であること、光沢がないことが特徴です。
ビジネススーツの黒は、光に当たるとグレーっぽく見えたり、ストライプなどの柄が入っていたりすることがありますが、喪服は無地で光沢のない、まさに「漆黒」と表現されるような色合いです。
正式な喪服は、昼の正礼装であるモーニングコートや、夜の正礼装であるタキシードに準じる準礼装としてブラックスーツが位置づけられています。
一般的に、通夜や葬儀・告別式に参列する際には、このブラックスーツ(準喪服)を着用するのが最も一般的です。
スーツの形は、シングルでもダブルでも構いませんが、弔事においてはダブルの方がよりフォーマルな印象を与えるとされています。
着こなしとしては、白無地のレギュラーカラーシャツに、黒無地のネクタイを合わせるのが基本です。
シャツはボタンダウンや織り柄のあるものは避け、シンプルで清潔感のあるものを選びましょう。
スーツは、体に合ったサイズのものを選び、シワや汚れがないようにクリーニングしておくことも大切なマナーです。
ネクタイ、靴、靴下、アクセサリーのルール
スーツに合わせて着用する小物にも、葬式ならではの厳格なマナーがあります。
まずネクタイですが、色は黒無地で光沢のない素材のものを選びます。
結び方は、結び目が三角形になるプレーンノットが一般的です。
ディンプル(くぼみ)は作らないのが正式なマナーとされています。
ネクタイピンは、光るものは避け、もし着用する場合は黒色や地味なデザインのものを選びますが、基本的には着用しない方が無難です。
靴は、黒色の革靴で、金具などの装飾がないシンプルな内羽根式のストレートチップやプレーントゥが最もフォーマルとされています。
スエードやエナメル素材、ローファーやモンクストラップなどのデザイン性の高い靴は避けましょう。
靴下も、黒色の無地のものを選びます。
くるぶしが見えるような短い靴下は避け、椅子に座った際に肌が見えないように、ふくらはぎ程度の長さがあるものが適切です。
ベルトも、黒色のシンプルな革製のものを選びます。
バックルも目立たないデザインが良いでしょう。
アクセサリーについては、結婚指輪以外の着用は避けるのが一般的です。
腕時計は、派手なデザインや高価なものは避け、シンプルなものを選ぶか、着用しない方が無難です。
このように、葬式では服装だけでなく、合わせる小物すべてにおいて、華美なものを避け、地味で控えめなものを選ぶことが、故人への弔意と遺族への配慮を示す重要なマナーとなります。
これだけは避けたいNGな服装・振る舞い
葬式という場において、意図せずマナー違反をしてしまい、失礼にあたってしまうことは避けたいものです。
ここでは、服装や振る舞いに関して、これだけは絶対に避けたいNGな点をいくつか挙げます。
まず服装に関しては、前述の通り、光沢のある素材のスーツやネクタイ、柄物のシャツやネクタイ、派手な色の靴下やベルトなどは避けるべきです。
また、殺生を連想させる爬虫類系の革製品(ワニ革など)や毛皮製品も不適切とされています。
カフスボタンやラペルピン、派手なアクセサリーの着用も避けましょう。
靴は、カジュアルなデザインのものや明るい色のものはNGです。
振る舞いに関しては、大声で話したり、笑ったり、スマートフォンを頻繁に操作したりするなどの行為は、場の雰囲気を乱し、遺族に対して失礼にあたります。
受付での記帳や香典を渡す際も、丁寧に行いましょう。
また、葬式に参列する際に香水をつけるのはタブーとされています。
香りは好みが分かれるものであり、体調が優れない方もいる可能性があるため、強い香りは控えるべきです。
そして、最も大切なのは、故人を悼み、遺族に寄り添う気持ちを持つことです。
形式的なマナーも重要ですが、その根底にあるのは故人への敬意と遺族への配慮です。
これらの気持ちを忘れずにいれば、自然と場にふさわしい振る舞いができるはずです。
まとめ
葬式という厳粛な場に参列する際、男性の服装マナー、特にスーツのボタンの扱いは、故人や遺族への敬意を示す重要な要素の一つです。
「葬式でスーツのボタンを外すのはNG?」という疑問に対する基本的な答えは、シングルスーツの場合は「一番下のボタンは開けておくのが基本」であり、ダブルスーツの場合は「基本的にすべて留める」が正しいマナーです。
これは、一般的なスーツの着こなしルールであるアンボタンマナーに則ったものであり、葬式という場でも適用されます。
ただし、これらのマナーは主に立っている